捜し物の得意な母

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私は粗忽者で、すぐにモノを失くしてしまう。見失ってしまう。
「あれ、鍵はどこだっけ? さっきここに置いたはずなんだけど・・・」
あちこちを探していると
「向こうにあったよ」
と教えてくれるのは、いつも母だった。
外出先で財布を落としたと思い込み、交番で届けを書いているときに
「見つかったよ!」
と持ってきてくれたのも母だった。
母は昔から私が見つからないものを必ず教えてくれるのだった。
・・・もちろん、病気で倒れる前の話。

5年前、母はありもしないものばかり見るようになった。
鍵を探していると聞くと
「あったよ!」
とペットボトルの蓋を差し出してくれる。
財布をなくしたと言うと
「お父さんが持っていった」
なんて言う。
ま、それはそれで楽しいんだけど。

ところが昨日。
私は例によって探しものをしていた。妹の首に巻くネックカラーが見つからない。そんなに小さなものではないのに、どうして失くなるんだろう。おかしいなあ。
すると。
「さっきテーブルの上にあったよ」
と母が言う。
「ごはん食べてるとき、目の前にあった」
自身満々だ。
どうせまたティッシュケースか何かと見間違えているのだろうと思いながら探しに戻ると…ダイニングテーブルの上にネックカラーがあった!
「すごーい! お母さんのいたとおりの場所にあったよ。ありがとう!」
「そうでしょ、ちゃんとあったでしょ」
母は得意げに微笑んだ。
「私、役に立った?」
立ったよ!
ものすごく!
急いでた時だから本当に助かった!

このあいだ叔母が
「最近、昔の顔に近づいてると思わない?」
と言っていた。
麻痺のせいで顔が半分しか動かず、どこか遠くを見ているような母の顔が。
「毎日みてたら分からないかもしれないけど、ぜったい、昔の顔に戻ってきたよ」
5年も経って。
まだまだ。
少しずつ。
取り戻せるものがあるんだ。

なのに!
なぜか!
母はいまだに猫たちの区別がつきません。
8割くらいの確率で間違えます。
色も違うのになんでだろう…。

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