働きたい発作

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「ねえ、考えたんだけど」
唐突に母が言った。
「私も働こうかと思うの」
うーん、また始まったか。

母はときどき「働きたい発作」に襲われる。
・・・どうやって働くの?
答えはいつも同じだが、一応は聞いてみる。
「バイオリンを弾いて」
2人バイオリンやん。私も一緒に働くことになるやん。
「違うの。そろそろ一人で弾ける気がするの」
いやいやいやいや…無理でしょう。バイオリンを持ち上げることもできないんだから。

私は下手になぐさめたりごまかしたりしない。できない。
高次脳機能障害の母は、いまいち自分の障害をわかっていない。わかっていないから何度でも希望をもつし、何度でも挫折する。そんな母に無責任な希望を与えつづけるのはかえって残酷だと思うから。

いつものように母はつづける。

「今あんたが私のお世話してくれてるぶんを、もしヘルパーさんに頼んだら、すごくお金がかかるでしょ? そのヘルパー料をあんたに払おうと思って。あんたも一応プロなんだし。だから働いて稼ごうと思うんだけど」

うん、ありがとうね。
じゃあ明日も私のために頑張ってデイサービスに行ってね!
「えー・・・」
えーじゃない!!!

デイサービスで働くミー先輩。

実際、母は働きたいんだと思う。人の役に立ちたいと思うのは人間の根源的な欲求だ。でも今の母は片手しか使えないし目も見えにくいし高次脳もあるから、なかなか難しい。まあまあできるのは本を読むこととおしゃべりをするくらいだけど・・・電話相談でもやるか? 『ココナラ』で介護相談とか。「障害児の親の愚痴聞きます」とか。

あ。でもダメだ。
今の母には、愚痴に同調する才能はないから、
「ほんまにもー、そんなグチグチ言ってんと、バシっと言い返したり!」
とか
「それがどうしたん?それくらい、いいじゃないの」
とか
「平気平気!」
とか
「いいやん、ほっときー」
とか、テキトウなことを言って相談にならない気がする。
働くってほんま…難しいな…。

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