昨夜のこと。ふと気がつくと、シシィがいない。
「あれ? シシィどこ行った?」
シシィ! と呼んでも来ない。 いつも私のあとを追いかけ回しているくせに、どこへ行ったのだろう? ・・・まあ気まぐれな猫のことだから、どうせどこかで寝ているのだろう。
と、思ってた。
そしたら。
しばらくして煙草を吸いに外へ出たオヤジが叫んだ。
「おい、たいへんやぞ! シシが外におる!」
オヤジはいまだにシシィが言えずに「シシ」と呼ぶが、そんなことはどうでもいい。家猫のシシィが生まれて初めて脱走したのだ! これがサンジなら、元野良だから大丈夫、じきに帰ってくるよと思えるのだが、外の世界をまったく知らない1歳半のシシィは何をやらかすか見当がつかない。家から出たとたん車に轢かれちゃうかもしれない。
私は靴も履かずに玄関をとびだした。門灯も街灯もついているが、やっぱり暗いし、シシィは黒っぽいので、どこにいるのかまったく見えない。
「あそこで動いててん」
オヤジが指差す玄関先の暗がりへ向かって
「シシィ!」
と呼びかけた。
「ニャニャニャニャニャーー!」
小さな黒い塊が、ものすごい勢いで駆け寄ってきた! どすんと捕まえると、シシィは私の肩によじのぼり、力いっぱい、ぎゅうぎゅうと、しがみついてきた。
「こここここわかったあああああ!」
さきほど急なお客さんが見えた時に、どさくさに紛れて脱走したらしい(ウンチングハイの最中だったし)。だが、生まれて初めての外界で、どう動けばいいのかわからない。小さな小さな庭を越え、開いていた門を越えてみたものの、怖くてうずくまってしまったのかもしれない(シシィは超内弁慶)。これが外に慣れた猫なら
「家に入れて!」
とにゃーにゃー鳴くものだが、シシィにはそんな知恵もない。どうしよう、どうしよう…と困っていたのだろう。
こうしてシシィさんの生まれ始めての大冒険は、約1時間、5mで終了した。無事に帰ってきてよかったが、そのあとの興奮状態がスゴかった。一人で暴れまわり、駆けずりまわり、つむじ風のようにキリキリまわった。サンジを捕まえて、
「あのね、あのね! 外ってすっごいんだよ!」
と報告しまくっていた。サンジはだいぶ迷惑そうだった…。
(疲れ果てて眠るシシィさん)
(ぼくもお外に出たいのに!と思ってるサンジ君)
そりゃあな。外に出たいのが自然だと思う。サンジは幼い頃にさんざん野良で苦労したはずだけど、それでもやっぱり出たいのだ。シシィは生まれてから一度も、空飛ぶ鳥を追いかけたこともなければ、芝生をかじったことも、セミやバッタを捕まえたこともないのだ。広い世界に憧れるのは当たり前だろう。
でもな。
お外は危険でいっぱいだ。一撃で命を奪う車もバイクも走ってるし、病気をもってる野良猫もいる。でも何より怖いのは、人間なのだ。シシィはまだそのことを知らない。
お猫様は、お願いですから、家にいてください。