みんなが行く道

朝、階下へおりるとオヤジがぼーっと立ち尽くしている。
・・・トイレ失敗した？
「うん」
トイレへとつづく廊下に滔々と川が流れているのでまずは拭き掃除。
足を洗って。着替えは自分でできるよね？
「うん」

そのあと母を起こしたり朝食をつくっていると、オヤジが再びぼーっと立ち尽くしている。
・・・またやっちゃった？
「うん」
着替えながら出ちゃったみたい。
はい、脱いで脱いでー。

やっとのことで朝食を食べさせ、デイに行く支度。
・・・あ、もうお迎えがきた！バスが来たよー、デイに行くよー。
「うん」
言いながらオヤジはまたも立ち尽くしている。
・・・もしかして・・・出ちゃった？
「うん」
バスはあきらめ、私がデイまで送って行くことにした。

もともと無口なオヤジだが今朝は「うん」しか言えないようだ。
もしかして落ち込んでる？
「・・・うん」
オヤジは無意識に失禁するというよりも、あっと思った瞬間に出ちゃうタイプ。
粗相をしている自覚はあるし、羞恥心もあるし、プライドもある。
だから失敗つづきの日はとても落ちこんでしまうのだ。
私はとっさにこう言った。

「大丈夫だよ。みんな同じ。みんなそうなる。クリント・イーストウッドだってトイレでは苦労してるんだよ？」

ごめんなさい、イーストウッドさんとそのファンの人。
なんでイーストウッドが出てきたかというと、オヤジが昔からファンで、このあいだアマプラで『人生の特等席』という映画を見たからだ。

この映画は主人公のトイレシーンから始まる。
80才をこえたクリント・イーストウッドが、男子用小便器の前で
「いいかげんに出てこい」
と自身を励ましている・・・弱々しいチョロチョロ音に涙を禁じえない。
ダーティ・ハリーだって苦労してるんだから、普通の人が失敗するのは当たり前やん！
（私はそこしか見ていないので、どんな話だったのかは知りません。オヤジは気に入っていました）

ちなみにオヤジの憧れクリント・イーストウッドは現在、91才。
にもかかわらず現役で今も新しい映画をつくっているそうだ。
最高にかっこいい90代…。
まあ、あんなふうにはなれないから、せめて明日はオヤジに西部劇でも見せてあげよう。

オヤジの相棒サンジ

さて次の日曜はいよいよ第１回ワクチン接種だ。
問題は来月の２回目で、副反応で発熱するかもしれない。
そうなると私の仕事に支障をきたすかもしれない。
資格のための研修もあり、これは絶対に欠席できない。
それに加えて仕事の予定にも変更があって・・・
母のショートに・・・
オヤジの新しいデイサービスに・・・
うーん、ややこしいな！
スケジュール調整が難解なパズルのようだ。
ほとんどワケがわからない。
なかなか大変な夏になりそうだ。