母は池江璃花子ちゃんが大好きだ。
これまで水泳には興味なさそうだったのに、すっかりファンになったらしい。
数日前に池江選手がオリンピック出場内定を決めたときは、インタビュー映像を見ながら泣いていた。
「だって3才から水泳を始めたっていうのに、病気のせいで長いこと泳げなくてね・・・。ぜんぜん比べ物にならないけど、私も3才から始めて60年も弾いてきたバイオリンが病気のせいで弾けなくなっちゃったでしょ。だから池江璃花子の悔しさがちょびっとだけ分かるっていうか・・・。でも、私はもうこの歳だし無理かもしれないけど、あの子は復活したのよ。それが嬉しいの」
母は池江選手をただ「病気から復活した人」というだけではなく、「これまでの努力と能力を病に奪われた人」として、どこか自分に重ねていたのかもしれない。池江選手の活躍を心から喜んでいた。
そのあとはブログ記事まで書いていた。
今までで一番まともな文章かもしれない。
最後のほうは疲れて誤字だらけになったけど。
母はもちろん今日の試合もずっと見ていた。
「水泳っていいね!」
と手に汗握りながらいろんな選手を応援していた。
「なんか見てるとわくわくして、イライラするね!」
・・・なんでイライラするの?
「早く!早く!ってこう、イライラしながら見ちゃうの」
それをいうなら『イライラ』じゃなくて『ハラハラ』だからね。
血圧が上がるから、あんまりイライラしないでね。