そろそろ90才になる利用者さんが、本当にあった怖い話を聞かせてくれた。
「おじいさんが夜中に山道を歩いてて、女の人に出くわした。真っ暗けの道に女の人が1人ふらふら歩いてくる。白い着物で。
『これは普通の人間やない、キツネや』
とおじいさんは思った。
それで黙ってすれ違おうとしたけど、狭い山道や。すれ違いざま、その女が、おじいさんの顔をのぞきこみよった。おしろいで真っ白な顔が闇夜に浮かんどる。おじいさんは、そらもう怖ぁて、走って逃げ帰ってきよったて」
昔はキツネもムジナもモノノケもいたのだろう。だが、おばあちゃんは笑いとばした。
「ははは、キツネやない。山道沿いの集落に住んでる奥さんや。よるの夜中に家の前の道を歩いてくる人がおるから、『知り合いかなあ?』思うて顔を見てはっただけや」
幽霊の正体みたり枯尾花、というやつか。
「そうそう。幽霊なんておらへん。キツネなんか化かさへん」
「怖いのは人間だけや」
おばあちゃんは、ふっと真顔になって言った。
「そこに〇〇って集落あるやろ。あそで昔、事件があってな。借金苦にした心中や。父親が斧かなんか持って、一家全員、皆殺し。小さい子まで殺されてしもうたわ。もう半世紀ほど前の話やけどあれは忘れられへんなあ」
本当に怖い話キターー!
「家は建てたばっかりの新築だったから、事件のあとも何人か住んだが、『気持ちがわるくて居てられへん』ってすぐに引っ越す。そのうち知り合いが買い取った。元気な若いご夫婦で、幽霊なんぞ信じへん人たちやったなあ。『安くで家を買ったから遊びにおいで』って言われて、私、行ったんよ」
いわゆる事故物件ですね。何か出ました?
「なんも出やせんけど、あんた、そらもう気持ち悪いで。事件のときに血ぃがドバーって出たらしくて、大きなシミが残ったまんまやから。飛び出してきたわ」
ぎょえええええ!
それは怖い。
ご夫婦は大丈夫だったんですか?
「いんや。えらい早死しはったなあ。奥さんは、おかしくなってしもて」
家はどうなりましたか?
「家はまだ建ってるで。住んではるかどうかはしらんけど」
実録『残穢』やん!
昔の人の怖い話はやっぱり怖かった。