視線

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私は訪問介護をやっている。訪問先で気づいた変化や出来事は、上司であるサービス責任者に報告しなければならない。

だが…報告できないことも、ある。

初めてのお宅を訪問するときは、上司と2人でお邪魔する。そのお宅もそうだった。
「こんにちは。今週からサービスに入ります◯◯です」
利用者さんに挨拶をし、お家を見せてもらい仕事の説明を受ける。玄関から居間に入ってキッチンへ。

ふと視線を感じて振り向くと、キッチンからのびる廊下に人影がみえた。ご家族さんだろう。奥さんかな。遠慮しておられるのか少し離れたところから、じっと伺っている様子だ。他人が家に入ることに戸惑う気持ちもわかるから、私は控えめに頭をさげて会釈をした。上司はしなかった。廊下は暗いし、利用者さんが話しておられたので、気づかなかったのだと思った。

キッチンを見たあとで
「寝室はこっちです」
案内されて廊下に入ると誰もいなかった。
寝室には仏壇があり、奥様の写真が飾られていた。

・・・お。さっきの人、どこいった。

そういえば利用者さんは一人暮らしだ。この家には誰もいない。さっきのは見間違いだ。私はきっとモップか何かにむかって会釈をしていたのだろう。

そう思うようにしてたけど、そのあとも毎週、そのお家ではずっと視線を感じていた。寝室がいちばん怖かった。

気のせい。
気のせい。
絶対、気のせい。

それでもずっと気持ちわるかった。寝室へつづく廊下にときどき濃い気配があった。利用者さんがいらしたのかと振り向くと誰もいない。ドアの開いた音が聞こえたのに開いてない。和室に入ったとたんモノが落ちてきたこともあった。

気のせい。
気のせい。
気のせいだー!

あるときベッドの辺りを掃除機をかけていたら、後ろから肩を叩かれた。すごい力でバシン!
「痛ー!なにすんのー!」
思わず声をあげて振り向くと仏壇で奥さんの写真が笑っている。掃除機ほうりだして逃げた。

もちろん、実際にはそんなはずあるわけがない。気のせいだと思う。思うけども。
病は気から。
幽霊も気から。

てなわけで私は痛む肩をさすりながら仏壇の前にもどって手を合わせ、
「ヘルパーです。週一でお掃除をさせていただきます。よろしくおねがいします」
と挨拶をしておいた。
次回からも和室に入るときに
「お掃除をさせていただきます」
と一言告げ、なるべく礼儀正しく振る舞うようにした。
相変わらず視線は感じたけれど、肩を叩かれることはもうなかった。

こんな話を上司に報告できるわけがない。それ以上の変化はなくそのお宅でのサービスは終了した。

訪問の仕事は利用者さんのプライベート領域に踏み込む仕事だから、そういうこともあるかもしれないけど・・・気のせい、気のせい。

本日の猫写真。

「ごはんくれ」と言っています

我が家で視線を感じるときは、間違いなくにゃんこが足元(もしくは頭上)にいます。

コメント

  1. はいはい。あるあるです〜。
    ワタシは病院でしたけど。
    信じる信じないは貴方次第です な分野のことなので、信じたくない人はそれでいいと思います。
    うちに来る訪看さんも水晶数珠のブレスして来ますが、リハビリ始めるとさりげなーく外してます。
    うち以外で色々あるんだろうなーって思ってます。
    きっと、利用者さんの奥様はまだお家に居られて、生前同様ご主人と二人で生活してたのに、何なの、この娘、私に断りなく家の中勝手に弄って不愉快だわ!って思われたんですよ。
    同じようにどつかれてすぐ感知する人と、何されても全然気づかない人って居ますから。
    取り敢えずご挨拶欠かさないようにして、受け入れて下さればいいですね。
    主婦にとって「家」はお城ですから。

    • あるあるですかー!
      病院ではありそうですが…
      そういえばウチに来る方にも水晶ブレスしてる人いますわ…今度きいてみよう。

      >きっと、利用者さんの奥様はまだお家に居られて、生前同様ご主人と二人で生活してたのに、何なの、この娘、私に断りなく家の中勝手に弄って不愉快だわ!って思われたんですよ。
      そのとおりだと思います。寝室でしたし。
      サービス開始前にお仏壇にちゃんと挨拶したんだけどなー聞いてくれてなかったのかな(笑)

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