我が家には昔からヘルパーさんに来てもらっているのだけれど、自分自身がヘルパーとして働くようになって初めて
「これダメだったんだ!」
と知ったことがある。
無意識で、あるいは善意で、ヘルパーさんを困らせてしまうこと。
それは「お茶出し」だ。
介護保険のヘルパーには「やってはいけないこと」が無数にある。むしろ決められた仕事以外は何もしてはいけない、という融通のきかなさである。お役人と同じで、介護保険という税金をいただいて働いているのだから、利用者さんから何かを頂いたりしてはいけないというわけだ。
それでも
「疲れたでしょう。まあお茶でも」
と言いたくなるのはごく自然な人情。とくに今は
「暑いでしょう、冷たいの飲んで水分補給してね」
と言われることがとても多い。
お気持ちはありがたく受けとるけれど、決まりだから断らなくちゃいけない。ヘルパーはみんな自分で飲み物もってきてるから大丈夫です。
そうはいっても、断るのが難しい。本当に難しい。
利用者さんは感謝の気持ちをこめてお茶をだしてくれているのだ。それを断るのはすごく申し訳ない気持ちになる。お茶だけじゃなく、利用者さんが端正こめて漬けたぬか漬けだったり、旅行先でわざわざ買ってきてくださったお土産だったり・・・断るとどうしても気まずくなるし、下手をすると
「ワシの気持ちが受け取れへんのかー!」
激怒されてしまうことも。
利用者さんとの関係が悪化してはいけないから、ほんとに気を遣う。
白状するが、室温が35℃の日に溶けかけのアイスクリーム出されたときは断れなかった。ごめんなさい。
そういえばこんなことがあった。
ある利用者さんのお宅へ伺ったとき、大量の甘酒が買い込んであるので「甘酒がお好きなんですね」と言ったら
「違うねん。これ◯◯さんのやねん」
と、違う事業所のヘルパーの名前が挙がった。
「一度甘酒を出してあげたら喜びはって、そしたら一回きりってわけにはいかへんやろ。先週は甘酒くれたのにって思われる。毎回出してあげないと。だからまとめ買いしたの」
・・・えっ、ヘルパーのために箱買いしたんですか?
「そうよ。えらい出費やいうて息子に叱られた」
そのヘルパーだって困っただろうなあ…断るタイミングがなかったのかなあ…。
善意で出されたものを善意で受け取っても、結局はお互いの負担になることもある。だから頂いてはいけないのだと上司はいう。
お茶といえば忘れられないことがある。仕事が終わって介護記録を書いていると、利用者さんが
「お願いがあるのだけど」
と言った。
「私と一緒にコーヒーを飲んでもらえない? 私コーヒーが大好きなんだけど一緒に飲む人がいないのよ」
その方は一人暮らしだった。家族と離れ、友達もなく、身体の問題から外出もできず、ひっそりと暮らしている方だった。このあいだも「1週間、ほとんど誰とも口をきかないの、あなたを除いては」と仰っていた。寂しいんだろうと思った。
「私の淹れたコーヒーはおいしいのよ、だから飲んでいってくださらない?」
利用者さんの顔をみると、断れなかった。
コーヒーはたしかにおいしかった。
利用者さんは本当に嬉しそうに微笑んで
「やっぱり誰かと飲むコーヒーはおいしいわ。味が違うもの」
と仰った。
それからまもなく、利用者さんは入院し、サービスは終了した。
コメント
おはようございます、だださん。
お疲れ様です。
お茶出し…、介護マネジャーさんに出していました。
いろいろ規定はあるのだろうけども、人の人情をあたたかく対応したいところ。
でも、何件も対応してるマネジャーさんとしては、断りもつらいですよね。
また、逆も利用者もいやいや〜と言うのにね。
利用者さんの負担になってるなら、きっぱりしないといけませんね。
と失礼。
ご自愛くださいませ。
ともさん、お疲れ様です!
私もヘルパーやる前は知らずにお茶出しまくっていました。
普通に受け取るヘルパーさんもいれば、きっちり断る人もいて、実情はいろいろなんですけどね。
規定ではダメってことで。
習慣と気持ちの問題ですしなかなか微妙だなあと思います。
うちは特に婆さまがお茶を出したがります。
でも、うちの婆さまは車椅子の左麻痺なので自分ではお茶を出せません。
だから、この季節になると「こんなに暑い中来てくださるのに」「アンタだって出先で冷たいもの出されたら嬉しいでしょう」「人としてそれくらいしたって」と、鬼ヨメサゲが止まりません(笑)
そして、「決まりですから」「ご自分で用意されてますから」と頑として受け付けない鉄血の鬼ヨメ。
飲み物以外だって、訪問の人達が嬉しい・助かる・有難いことは幾らだってあります。
飲食振舞っていいことしたと思ってるのは残念だけど利用者本人の自己満足です。
とはいえ、訪問は相手との触れ合いが密な分、断るのも高等技術ですよねえ。
お疲れ様です。
POTEさん、お疲れ様です!
そんなことまで嫁いびりの一因に(笑)
いやいや大変ですね。
人がきたらお茶を出すというのは文化というか常識というか、何十年にもわたって染み付いた習慣ですから、規則だからダメと言われても「お茶くらい出さないと失礼」のほうが勝ってしまうんでしょうね。
お茶を出していただくよりもありがとうの一言で十分嬉しいのですが…