認知症のTさん。
いろんなことをぜんぶ忘れて
身体も弱っておられて
ほとんどしゃべらなくなった方なんだけど
今日、突然、妙なことを言い出した。
「フー・・・セド・・・スメル・・・」
それは、低い、低い声で、まるで地の底から聞こえてくるようだった。
「フー・・・セド・・・スメル・・・」
呪いだろうか。
魔法の呪文だろうか。
私はすっかりびびってしまった。
どうしたんですか!?
声をかけると、Tさんは、ぶるぶると震える指で私の胸を指差した。
胸ところに書いてある、英語の文字を。
指さしながら
「Who…said…smells…
bad…around…me…?」
英語を読んでいるのだ。
日本語だってめったに話してくれないのに!
一体、何が起こってるのだろう?
キョトンとしていると、Tさんは、
「これはどういう意味?」
というように私を見上げた。
えっとえっと、俺のこと臭いって言ったの誰だ?ってスカンクが言ってます、たぶん。
しょうもないことしか書いてなくてすみません!
しょうもない服着ててすみません!
申し訳なくて謝り倒した。
するとTさんは気が済んだようで、そのあとはほとんど口をきかない、いつものTさんに戻ってしまった。
あとで家族さんに「Tさんが英文を読んだんです!」って伝えたけど、あんまり信じてもらえなかった。息子の顔も忘れてるのに英語なんてと笑われた。
でも私はたしかにTさんが英語をしゃべるのを聞いた。
Tさんは、すべてを忘れてるんじゃないんだ。消えてしまったわけじゃない。頭の奥深くに大事に仕舞っているだけなんだ。何度も海外旅行をしていたハイカラなTさん。ふっと目についたアルファベットが、Tさんの脳みその奥に眠る箱を、つかのま開いたのだろう。Tさんの頭の中には、たくさんたくさんの宝物が眠っているんだ。
ちょっとびっくりした。
本日の猫写真。
今日は下の妹が帰宅して、私がずっとバタバタしているので、
「なんで遊んでくれないのよ!」
とスネているシシィさん。すねてても、でかい。
コメント
>何度も海外旅行をしていたハイカラなTさん
きっと流暢に英語を駆使して色々な経験をなさったんでしょうね。
老いは残酷ですが、それでも何もかも忘れわからなくなってしまうわけじゃない。
些細なきっかけで、記憶の扉が開き、かつての黄金期の片鱗を見せることがあります。
どうせボケちゃってるんだから
どうせ何も聞こえないんだから
そう思うのは勝手ですが、油断大敵、すぐに反応がないだけで、実際には敏感に色々なことを感じ取っておられますよね。
訪問のお仕事は大変ですが、そんな風にたくさんの方と触れ合い、新しい気づきが得られるなんて素敵です。
そうなんですよね。
若い頃は旅先でペラペラ喋ってはったんじゃないかなあと思います。
今までも言葉で返すことができなくても、心には届いているものと信じて仕事をしていました。
しかしこれほど唐突に覚醒されるとは・・・侮れません。
まるで沈黙の鍵をかけてたくさんの宝物を隠している、宝石箱みたいですね。人に歴史ありです。
訪問の仕事はマンツーマンで利用者さんと向き合えるので、いつも人生勉強させてもらっています。
だださん、こんばんはー
うちの父は、倒れて入院してるときに「名前書いてみて」と言ったら
「MASAHARU YAMASHITA」(仮名)っていきなりローマ字で書いたので
ちょっとびびらされました。ひねくれ父ちゃんです。ローマ字好きなのです。
うちの義姉さんのお母さんも左麻痺でしたが、漢字が読めて、カタカナひらがなは
読めなくなったとか。脳は不思議ですね。
息子さんの顔を忘れてしまうのも悲しいけど、でも時々は思い出しているかもですよね。
ものすごく頑丈な宝箱の鍵は、どこかにある。
って、画像見て思ってたんですけど、
シシやんのほうがサンちゃんよりでっかくなってる???
こんばんはー。
脳ってほんと不思議ですね。
ローマ字好きのお父様、おちゃめですね。
半側空間無視もたいがい不思議な病気ですが。
シシィはサンジより一回り、1キロ近く大きいんですよ!
ダイナマイトボディな女子なんです。
凄みを感じるお話。
もう何も判らないのだから、と思い込まない方がよい
かも知れませんね。
そうですよー。
たとえ眠っているだけに見えても「耳は聞こえてる」って看護師さんに言われました。
うちの妹も、傍目にはなんにもわからない赤ちゃんみたいに見えるのですが、実はちゃんとわかっています。
認知症の方も、たとえ理解力はおちても心で受け止めておられるのだと思います。
たまに覚醒すされるとビックリするのですが。