「このトシになると、楽しいことなんか、ひとつもないの。私の生活、いいことなんか、ひとつも起こらないのよ」
と言ったおばあちゃんがいた。
「親しい人たちは次々に死んでしまうし、体はどんどん動かなくなる。病気であちこち痛くなるし、病院へいっても『それは老化です』って言われる。お金だってあんまりないし、やることも、できることもないから、暇があれば寝るしかないの。寝るよりほかに、することなんてないから」
もともとネガティブ発言の多い人だけど、近頃はとくに鬱気味になっているのだと心配していた。
ところがだ。
今日、そのおばあちゃんに会うと、びっくりするくらい生き生きしていた。
「偶然、昔の友達に会ってね。クリスマス・パーティをしようっていうことになったの。私は足も悪いし、体がしんどいから行けないって断ったのだけど。そしたら家まで迎えに来てくださることになって。・・・今、着ていく服を選んでるの。ねえちょっと見てくださらない? どっちがいいと思う?」
おばあちゃんはタンスの奥深くからおしゃれ着を引っ張り出してみせてくれた。華やかな服、エレガントなベルト、銀色の靴、上品なバッグ、本物のファーのついたコート。
どれも素敵ですね! と私がほめると、
「そうでしょう!?」
と顔を上気させた。
いつもよりきれいな服を着て。
お化粧をばっちりきめて。
なつかしい友達に会いにいく。
それがどんなに素晴らしいことか。
どんなに幸せなことか。
80才になっても、90才になっても、100才になっても。たとえ杖をついてもシルバーカーを押しても、車椅子に乗っても。たとえ紙オムツをつけていても、ベッドから出られなくても。
楽しいことはきっとある。
そう、思えたらいいなと思う。
(姪っ子の膝の上で至福のサンジ)
かつて、
「人生の最後に残るのは、友達や」
と教えてくれたおばあちゃんのことを思い出した。
「家族は、死ぬか遠くに居るかして、あてにならん。お金は使って無くなる。体が悪くなって趣味もでけんようになる。最後に残るのは、友達としゃべることだけや」
高齢の人にとって友達とは、最後の楽しみなのだ。