クラシックの演奏会に参加した。バイオリン弾きの母が5年前、病気のために出られなかった演奏会。今日はそのリベンジだ。(詳しくは昨日の記事に)
この5年で母はずいぶん元気になったが、脳出血の後遺症が治ったわけではない。ドラマみたいに奇跡の復活を遂げたんじゃない。左手はぴくりとも動かないまま。バイオリンを持ち上げることすらできない。
この5年間、母は音楽をあきらめなかった。右手1本で自分の愛する音楽を握りしめ、はなさなかった。だから私は片手でバイオリンを弾く方法を考えた。2人で一挺のバイオリンを弾く「2人バイオリン」だ。
今日のコンサートは、5年前のリベンジであり、この5年間の集大成みたいなものだった。「5年間でここまでこれたぞ!」って自分たちに言うための。
私はブラウスの下にウィーンで買ったTシャツを着ていた。客席では何人もの方に「本、読みました」と声をかけていただいた。職場の人も聴きにきてくれていた。ウィーンへ行き、仕事復帰し、本を書いた、私の5年間の縮図だった。
そして。工夫を重ねた2人バイオリン。
コンサートはすばらしいものだった。有名な曲もあれば初めてきく曲もあり、歌やピアノや、クラリネットやオーボエ、サックスやフルートまでいろいろな音を楽しめるから飽きなかった。2部は子供たちも出演する音楽劇だった。
私たちの出番は最後の一曲。アンコールで出演者全員とお客さんとがいっしょに歌を歌うときに演奏する。
車椅子を押して舞台にでていく。譜面台の位置を整え、母に弓をもたせ、顎置きとハンカチをセットし、大急ぎで用意をしていたら突然、
「前代表の高畑がここに来ています!」
と紹介されてびっくりした。もっとびっくりしたことに、拍手があがった。母のことを、母のバイオリンを、覚えていてくださる人がいるのだと、すごく嬉しかった。
でもいつものことだけど、母は緊張すると状態がわるくなる。高次脳機能障害がバンバン出てくるのだ。ぼんやりするし空気は読めない。左への傾きもすごいし、記憶もみだれる。でも母はがんばった。それなりに・・・がんばった。前奏はぜんぜん弾けなかったけど、メロディラインだけはちゃんと弾けたよ!
曲は『ふるさと』だ。
♪ うさぎ追いしかの山
♪ 小ぶな釣りしかの川
♪ 山は青きふるさと
♪ 水は清きふるさと
舞台も客席もみんなで一緒に歌う『ふるさと』。なんてきれいな曲だろう。もうこれ第二の国歌でいいんじゃないかと思うくらいだ。
弾きながら思った。私のふるさとは、母のバイオリンの音だ。この音をまた聞くことができてよかったと。いつまで続けられるかは、わからんけど。
正直いうと、2人バイオリンなんて自己満足だ。ぜんぜん綺麗な音はでないんだ。母は楽譜をよめないし、あんなアクロバティックな奏法でまともな音がでるわけがない。小学3年生くらいの子のほうが格段に澄んだ音で弾く。こんなド下手くそな演奏でコンサートに出たいなんていう私たちはとんだワガママなのだ。
それなのに。
コンサートが終わって外へでると、母はやっぱりたくさんの人に声をかけてもらっていた。
「久しぶりに(母のバイオリンを)聞くことができて嬉しかったです」
「涙がでました」
「いつまでもお元気でいてくださいね」
きれいな音では弾けないけれど。音を楽しむこと、音楽を愛することを伝えられたら、私たちの2人バイオリンにも少しは意義があるのかもしれない。
コンサートを聴きにきてくださった方々、ありがとうございました。
そして私たちのワガママをきいて参加させてくださったムジカの方々、ありがとうございました。
コメント
お母様とだださんがそれぞれ大変な思いとチャレンジ精神で頑張ってきた5年間だったんでしょうね。5年間前のリベンジおめでとうございます。
ありがとうございます!
大変なように見えて実は楽しい5年間でした。
やったぞー!
お疲れ様でした。
色々な感動があると思います。
完璧な容姿で完璧なレッスンを積み、深く音楽を理解し、楽譜通り完璧に奏でる楽曲。
身体が不自由でも、障害があることに臆する事なく、ただひたむきに楽器を弾きたいと願い、果敢に演奏に挑み、懸命に響かせた音色。
可哀想な人が頑張っているから応援しなくちゃ という気持ちもあるかもしれませんが、その一方で、「高畑先生」の懸命な演奏に、我知らず胸が熱くなり気が付いたら夢中で拍手を送っていた優しい人達も大勢いた事でしょう。
母上は誰かの役に立つことや誰かを励ますおつもりはないかもしれませんが、そのシンプルで純粋な「やりたいことをやる」心意気はきっと多くの人を励ましたに違いありません。
>可哀想な人が頑張っているから応援しなくちゃ という気持ちもあるかもしれませんが、
そっか、そういう見方もあるのですね!
私達、可哀想な人に見えるんだ!(笑)
その発想はなかったです。
外からどう見えようが構わなくって、母はやりたいことをやり、私はやるべきことをやっていただけで。
結果的に楽しんでもらえたら嬉しいですね。
「こんなおもろいことができるで!」
っていう大道芸というか見世物的な・・・。
ついでに、大人になってピアノを弾かなくなった方や、歌わなくなった方が、また音楽を始めたいなあと思ってくれたら、もっといいですね。
戻る場所がある事が、また次の目標が出来ますね
往復2時間ぐらいまでで行けるのでしたら、聴きに行くのですが、老犬のお留守番が怪しくなってきました。
聴きに行くと、きっと涙で前が見えなくなっちゃいそうです。ピアノだと片腕でも音はなんとか出ますが、violinはそうはいかないですもんね、二胡と合わせてみたいです
そんな感動的な演奏ができたらよかったのですが(笑)
私の手と母の手は連動していないもので、なかなか綺麗には弾けません。
どうせなら、おおっ!と言ってもらえるような演奏ができるようになりたいです。
上手に弾けるようになったら私たちと一緒に二胡を弾いてください!
良かったですね❣️
その時は大変でも、充実した時間だったと思います。
健康であったら、病気にならなかったら、と何度も悔しい思いをされた事でしょう‼️
でもできる事はたくさんありますね!
次の目標に向かって…旅行も✌️
>次の目標に向かって…旅行も✌️
ねこママさんがそんなことおっしゃるから!
旅行のことで頭がいっぱいになっちゃって、記事内容が変わってしまいましたよ(笑)
>健康であったら、病気にならなかったら、と何度も悔しい思いをされた事でしょう‼️
えーと、そうでしたっけ?
忘れました~!
昨日は、会場にて二人バイオリン🎻を聴きました。
素晴らしいです。
前回の11月の時より音が綺麗でした。
本日が出版され直ぐに、アマゾンで購入。
楽しくよみました。
早速、共に母を介護した義姉に送りました。
彼女も音楽大好き人間。
先程メールで、7月にウィーンに行くと連絡がありました。
「愛と勇気と実行力に、大いに感動したとお伝えください。
良い本を紹介してくれてありがとう」
と書いてありました。
そんな声をお届けしたくって、ここに投稿しました。
おおおお!
会場まで来てくださってありがとうございました!
でもちょっと恥ずかしい!
>前回の11月の時より音が綺麗でした。
本当ですか!?嬉しいです!
緊張してないときはもっと綺麗なんですよ。
それに、前奏も間奏もぜんぶ弾く予定だったんですよ…入れなかっただけで…
いつかもっと綺麗な音を、母のバイオリンの本当の音を、聴いていただきたいです。
そしてお姉様、ウィーンへ行かれるのですね!
「いいなあ、もう一度行きたい」
と母が隣で申しております。
本を読んでくださってありがとうございますと、お伝え下さい。
えーと、念の為、ワタシは別に二人バイオリンなさるだださん達を可哀想だとは思っていませんが、中にはそういう視点の人もおられるかな〜という意味です。
外出先で親切にしてくださる人で、さり気なくスマートに手伝ってくださる人もいれば、もう視線が雄弁に「たいへーん、かわいそー」と言ってる方も、実際にそう言ってくださる方も居るので。
レスはどうぞご無用で。