おばあちゃんの話が長い

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先に言っておくが、私は高齢者の話を聞くのが大好きである。私の知らない時代の話、私の知らない世界の話を垣間見せてもらえるからだ。

それでも訪問ヘルパーは時間内に仕事を終わらせ次のお宅へ行かなければいけない。話を途中で遮ることもはばかられるので、時間を気にしながらお話を聞くことがままある。
……そう。
世の多くのおばあちゃんの話はちょっと長いのである。
以下に分類してみよう。

◯繰り返し型
同じ話を何度も繰り返す。
認知症の典型的な症状の一つ。
認知症じゃなくても、しゃべりたいことは何度でもしゃべってくださる。
何回同じ話するねん!と思うけど、その人にとっては大事な話なんだろうなあと思う。
1つの話のなかに別のエピソードがまじることも多々。

◯ゆっくり型

言葉がなかなか出てこないのは、高齢だからしかたがない。
「えーっと、あの、なんやったかな」
「私、なにを言おうとしたんやったかいな」
「あの~ね? あれが、あれ、あれえ?」
言葉が出てこないだけでなく、しゃべるスピードが遅いことも多い。
気長にかまえるしかない。
実はだいぶ眠い。

◯止まらない型
怒涛のマシンガントーク!
時間の経つのも忘れて熱中して話してくださる。
聞いてるほうもおもしろかったりする。
嫁の愚痴とかじゃなければ、だけど。

◯枝葉型・おおまわり型

このタイプは認知症や年齢にまったく関係ない。若く元気でも、余分な話をしているうちに本題からどんどん逸れていってしまう人が一定の割合で存在する。これが高齢になると本題を忘れる。

たとえばおばあちゃんが転倒したと聞きつけ「いつ、どこで転倒したのですか?」と尋ねたとしよう。おばあちゃんの話は
「昨日ね、いつもどおりに7時に起きて、朝ごはんを食べるでしょ」
から始まる。もちろん朝起きてすぐに転んだわけではない。
「朝ごはんのハムを買ってきてもらうのを忘れててねえ」
ハムですか。
「その前の日は珍しく孫が来てて」
あ、一昨日?
「孫がね、いろいろ買い物をしてきてくれたんですよ」
優しいお孫さんですね。
「そうなの。この孫のお嫁さんがね」
嫁が出た! 本格的な大回りの前触れだ。
「お嫁さんの従兄に田中さんいう人がいてはって、その田中さんのお嫁さんが」
ええと、待って待って。
孫の、嫁の、従兄弟の、嫁の、田中さん。完全に他人ですね。
「田中さんは大工さんでね」
遠縁の田中さんは腕のいい大工さん。
だがこのご時世で仕事がなくて、お嫁さんも困ってて云々。
田中さんのお父上も腕のいい大工で云々。

関係ない。
転倒の話に田中さんもお嫁さんも絶対に関係ない。
なんならハムも関係ない。

どこまで迂回するのか?
どうやって本題に戻るのか?
あとどれくらいかかるのか?

でも、おばあちゃんはものすごく話したかったんだろうな。
ずっと気になってるんだろうな。
田中さんに何かお仕事をあげられたらお嫁さんも喜ぶなって考えてるんだろうな。
家から一歩も出られない高齢者にとって、遠い親戚の話は一大ニュースなんだ。

そんなふうに考えてしまって、ぜんぜん割って入れない。
私もなかなかヘタレなのである。

しかし、ひととおり喋って気が済んだのか、それとも疲れたのか。
「前の日に孫が買ってきた残りを、お昼ごはんに食べたあと、扇風機のコードにつまづいて転んだの」
唐突に本題が回収されてびっくりする。

転んだのは昨日の昼で、原因は扇風機のコードだと判明するまでに15分くらいかかる。
めっちゃおもしろい。
そんなおばあちゃんの長い話が、私は大好きです。
・・・あ、話を聞きながらも手は動かしてます!

本日の猫写真。

ウンチング・ハイで走り回ってるサンジ君。病人のわりには元気だなあ。