入れ歯そうじとクロスワードパズル

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脳出血の後遺障害をもつ母にとって、日常生活はすべてがリハビリである。車椅子だし、右手しか動かないが、それでも、できるだけ自分のことはやってもらうようにしている。お化粧もほとんど自分でするし、タオルやトイレットペーパーも自分で交換してもらう。ここ1年でできることがだいぶ増えた。

母はトイレ掃除も自分でする。私は、車椅子を近づけたり、母の手が届かない洗剤など取ったりするだけだ。これもリハビリだからね!とか言いながら、私がやりたくないのが本当の理由なのだが、母は嬉しそうに
「私ね、『自分でトイレ掃除してるのよ』ってデイで自慢してるの!」
とか言うている。
「他の人はみーんな家族にやってもらってるの。自分でトイレ掃除できるのは私だけなの!すごいでしょ!」
・・・うん、すごいすごい。よかったよかった。

そんな母が、前々からやりたがっていることがある。
「自分でできたらどんなにいいかと思うんだけど・・・」
残念そうに言う。
それは、義歯洗浄だ。

母は総入れ歯である。食後に入れ歯を洗うのだけど、片手だとどうしてもうまくいかない。水ですすいだり指でこすることはできても、細かな汚れを取ることができない。

そこでいいものを買ってきた。
ダイソーの爪ブラシ!

後ろに吸盤がついている。
これで洗面台に固定して、水ですすぎながら義歯をこすれば、きれいになる!
・・・ちょっぴりブラシが硬いのが気になるけど・・・。
「わああああ、これ、いいねええええ!」
母は大喜びである。
「これで私ひとりで入れ歯そうじできるねえ!」
これで私の仕事がひとつ減ったねええええ!

うん、よかったよかった。
母のできることが1つ増えた。

いや、2つである。

実は最近もうひとつ発見があった。先週、オヤジのお見舞いにクロスワードパズルの雑誌を頂いたのだが、オヤジは『難しいことを考えると知恵熱をだして死ぬ』と思い込んでいる。代わりに
「私がやってみよう!」
母が手を出したのだ。

母はクイズが大好きだが、クロスワードパズルって難しい。知識を求められるような問題だけではなく、なぞなぞのように捻った問題もある。それに、答えを書く場所や文字数も決まっている。母はこれまでクロスワードパズルをちゃんとできたことなんか一度もなかった。

ところがだ。

問題には『刺し身』って書いてあるだけなのに
「おつくり!」
即座に答える。

『早寝なので、月が出る頃にはコレの中』
という問題には
「ユメの中?でも3文字だから違うわねえ。フトンかな?」
文字数もちゃんと考えている!

それだけではない。
『国名あてクイズ』は、知識だけでは答えられない問題だった。

土井さん×2で、ドイツ。

リスが意義をとなえて、イギリス。

私もすぐにはわからなくて「なんだろうなあ」と考えるような問題を、母はスラスラと解いだのだ。1年前の母ならきっと
「この絵は何なの? 犬?猫? リスが意義アリってどういうこと? どうしてこれがイギリスになるの?」
ぜんぜん意味がわからなかっただろう。

クロスワードパズルはやっぱり左のほうが見えなくて苦労はしてたけど、『ここだよ』って教えてあげればほとんど自分で埋めることができた。それだけ高次脳が治ったということだ。

義歯のそうじと、クロスワードパズル。「自分でできること」が2つも増えて、母はまた、ちょっとだけ進化したようだ。

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