兄弟の距離感

スポンサーリンク

知的と身体に重い障害のある妹・U子は、30才をすぎるまで自宅で過ごした。家から作業所に通い、ヘルパーさんにも来てもらっていた。その頃からずいぶんうるさかった。夜になるとゴジラのように叫ぶのだ。母はもちろん、私たちも眠れない夜がたびたびあった。

主介護者である母が入院するとすぐケアホームに入れてもらった。すばらしいスタッフに恵まれ、とてもいいホームだったけど、週末は閉めるため、U子は毎週帰ってきた。

これまでずっと家にいたことを考えると週1日か2日の帰宅なんて楽勝だ。と、私は思っていた。たぶん周りもそう思ってたんじゃないかな。週末だけなら大丈夫だろうと。

でも、母が退院すると、毎週末がW介護になった。
それは想像以上に重くのしかかってきた。

母の病気をした不安からか、それともケアホームに入ったせいか。たしかな理由はわからないが、妹の「夜の雄叫び」は以前よりもずっと激しくなり、家にいる間は一睡もしなくなってしまったのだ。なだめてもすかしても、絵本を読んでも子守唄を歌っても、睡眠薬をもらってもダメだった。

私は妹を落ち着かせようと、一晩中、奴隷のように枕元に侍った。トイレに行っただけでも機嫌を損ねて叫びだすから、本当に何もできなかった。
・・・週にたった1日か2日のこと。
そう思って頑張っていたが、ものの数ヶ月で限界がきて、施設に入所させた。

入所させてからも定期的に帰宅させている。
最初の頃は月に2泊だった。
だがそれもしんどくなって1泊になった。
今では妹に「徹夜で侍る」と翌日の仕事に差し支えるため、日帰りである。

家で暮らしていた子が、月に1日、数時間の帰宅をするだけになった。かつて
「施設に入れるなんて可哀想に」
と言われたことがある。その人が聞いたらまた憤慨するだろう。もっと連れて帰ってあげなさいよ、って。

私も最初は罪悪感があった。でも近頃ではもう、U子にとっては施設が「家」だ。そりゃあ迎えにいけば声をあげて喜ぶけど、帰るときにはホッとした顔を見せるようになった。すでに実家は「来てよし帰ってよし」なんだろう。重い障害があるけど、U子はもしかしたら私よりも自立している立派な大人なのかもしれない。

U子はサンジのことを「あーんじ~」と呼びます

帰宅するたびに下痢をするのと頻尿のせいと、それから、ただ「かまってほしい」せいで、今回は6時間で12回くらいオムツ交換をした。正直いうと月1回の日帰りでさえそんなに楽ではない。妹の帰省はお互いにかなりエネルギーを使う。もしかしたら、U子だって家に帰るのはしんどいと思っているのかもしれない。兄弟の距離感って難しい。

タイトルとURLをコピーしました