ただの男

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私は利用者さんの昔話を聞くのが好きだ。若い頃の話や嫁姑で苦労した話。仕事の話。大きな魚を釣ったときの話。戦争中の話もときどきしてくださる。
「軍隊の時分にな、ちょいちょい、東條さんに会ったよ」
90代の利用者さんがヒョイと言い出したときは、何のことか、誰のことか分からなかった。
・・・東條さん、とは?
「東條英機やがな」
・・・もしかして『あの』東條英機ですか?
「そうや。『あの』東條や。何度か声をかけてもらって話をした」
教科書とか小説とかテレビでしか聞かない名前だからびっくりした。陸軍大将の。総理大臣の。A級戦犯。
・・・どんな人ですか?
思わず前のめりになって訊いた。
「生身の人間や」
好奇心むき出しの私を諭すように、利用者さんは言った。
「ただの男や。わしや、あんたと同じ」

それから話の調子が変わった。

「わしも特攻に志願したんですよ。戦争も終わりのほうになると、17才になれば全員志願しなくちゃいかんかったから。わしは行かんですんだけど、同世代は何人も行ってしもたな。知覧から飛んでな。
特攻に行くことになったやつとは最後に食事をしたよ。こう、机を挟んで差し向かいで。ちょうど、今のわしとあんたみたいにな。
あの頃は天皇陛下が一番えらかったやろ。でもな、そいつはこう言いよるねん。
『オレの心の中では、一番えらいのは、お母ちゃんや』
天皇陛下よりも偉いお母ちゃんのために行くんやって」

東條英機も。
特攻に散った少年も。
ドナルド・トランプも金正恩も。
みんな、ただの男だ。
普通の人間だ。
みんな同じ・・・はずなのになあ。

本日の猫写真。

近頃、私はサンジと席取り争いをしています。
「ここは私の席なの!仕事するんだからどいて!」
と言っても
「これは僕の椅子なんだから!」
とききません。今日はティッシュを取りに立ち上がった一瞬の隙にイスを奪われた…

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