母を無視してやった

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2人バイオリンで弾くチャイコフスキーの『弦楽セレナーデ』。とても難しい曲で手こずっている。このままではコンサートに間に合わない。せめてもう少し弾けるようにならなければ!
というわけで私は今夜も
「2人バイオリンの練習をしよう」
と母を誘った。
ところが
「えー、めんどくさい」
と言われた。
母はもともとバイオリン教師である。私たちが子供の頃は
「どんなに忙しくても、毎日最低でも30分は練習しなさい!」
とうるさかったものだ。
・・・それなのに自分は「めんどくさい」だとお!?

怒りをおさえつつ、練習しないと上手になれないよ、と言うと
「だってあんたの音程が酷いんだもん。頭が痛くなっちゃう」
・・・なーんーだーとおおおおおお! 私のせいにするなああああ!

普通に弾いても難しい曲だけど、2人バイオリンだと音程を取るのがずっと大変なんだよ。ポジション移動の感覚がぜんぜん違うから。だからこそたくさん練習しなくちゃいけないんだよ。
「あんた一人で練習しといて」
・・・もう! アタマにきたー!

まあ、母とケンカしたって勝負にならない。介護者である私のほうが絶対的に有利なんだから。私が手をかさなければ母はトイレも食事も何もできない。

でも、介護者だって、怒りたい時には怒るのだ!

「もういい、一人でやるわ!」
私は楽譜とバイオリンをひっつかんで部屋を出た。そして隣の部屋で一人でバイオリンを弾き始めた。2人バイオリンの練習にはならないけど、曲を頭に入れることはできる。音程をとるのが難しいところを何回も繰り返し繰り返し弾いた。

母が言い出したのに。「この曲を弾きたい」って言い出したのは母なのに。難しい曲だ、無謀な挑戦だと最初からわかっていて、それでも母が「弾きたい」っていうから始めたのに。私は初心者だし、2人バイオリンなんてそもそも無茶なんだから、昔の母みたいに綺麗に弾けるわけないじゃないか。うまく弾けなくてウンザリしてるのかもしれないけど、せめて「体調が悪いから今日は休む」くらい言えばいいのに。ああもう腹立つなー!

ぷんぷん怒っていたから隣室から母の声が聞こえてきても、無視した。聞こえないフリをしてやった! 私ができる仕返しはせいぜいこれくらいだ。

母は壁越しにこう叫んでいた。

「やっぱり私も弾くーーー!」

しばらく放置してから迎えにいくと、母は顔を輝かせて、
「音だけ聞いてたら私もバイオリン弾きたくなっちゃった!」
・・・ほんまにもう。子供かよ。
それで一緒に練習をした。
2人で弾いても何回弾いてもやっぱり難しかった。

本日の猫写真。
遊んでもらえなくてスネてるシシィさん。

ピンクのカーネーションは母がデイサービスで作ってきたもの。「これ私の!」とシシィが取っちゃいました。