要介護で車椅子の母が美容院をつかうことは少し難しい。美容院のくるくる回るイスに移乗したり、体を後ろに反らせるのは至難の技だからだ。一度だけチャレンジしたけれどあまりにも大変だったから止めた。
そのため普段は訪問美容にお願いしている。装置と技術をもっている美容師さんに来てもらい、シャンプー・カット・カラーを自宅でやってもらうのだ。白髪染めまでしてくれる訪問美容が地元にないため、隣の市から来てもらっている。
が、ここしばらく来てもらうことができなかった。年末は忙しかったし入院もしたから。そうこうしているうちに髪は伸び放題。落ち武者みたいになってきた。あんまりなので、久しぶりに普通の美容院に行くことにした。カラーなしで、カットだけなら大丈夫だろう。
何度か行ったことのあるおばちゃん向けの美容院は予約がいっぱいだった。それで初めての店に電話をかけた。車椅子のまま、ドライカットのみお願いできますか?と。
「いいですよ」
と快く引き受けてくれた。
ところが行ってみるとその店は、おばちゃん向けの美容院ではなかった。客層はちょっとオシャレめなお姉さんみたいだった。しまったと思った。
まあ頑張ってもらおう。
くるくるイスをどけてもらい、車椅子を鏡の前につける。
「今日はどうしましょうか?」
美容師のお兄さんが私に話しかけてくる。母が話せるようには見えなかったんだろう。「本人にきいてください」と答えてようやく、美容師さんは母にヘアカタログを見せてくれた。
あたりまえのことなんだけど、美容師さんは障害者の髪を切るのに慣れていなかった。店の雰囲気からいってたぶん高齢者にも慣れていないだろう。
カットが始まって間もなく
「えーと、もしかして顔をあげていることが難しいですか?」
と聞かれた。
そのとおり。
母はほとんど顔が上がらない。ほとんどずっと項垂れている。これまでの訪問美容やおばちゃん向けの店では一度も問題にならなかったのだけど、この若い人向けの店は違った。
「すみませんが、顔を持っといてもらえますか」
と言われた。
項垂れた状態では髪が切れないらしい。
私はカットの間中(30分くらい)、母の顎を支え、持ち上げつづけた。なかなか大変だった。
それだけではなく、母は「じっとしててくださいね」と言われたら動くし、「下をむいてください」と言われたら顔を上げるし、1分おきに鼻をかもうと動く。美容師さんはそのたびに手をハサミで切りそうになり大騒ぎだった。
ほんと申し訳なかった・・・。
母がどんなに動いてもへっちゃらで髪切ってくれてカラーまでしてくれる訪問美容はほんと凄いと思った。
本日の猫写真。ご機嫌斜めなシシィさん。
帰宅すると「ニャニャンニャー!」ってめっちゃ怒られた。そのあと私にはりついて離れなくなった。
大好きな子供たちがいなくなって寂しいのだろう。それに、いなくなった理由もわからないから不安なのだろう。私の姿が見えなかったから
「あんたはいなくならないでよ!」
と怒っているのだろうと思う。
大丈夫。
私はずっとそばにいるよ。