好きなことはけして無駄にはならない

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「暑いです。今日は暑いです。とてもとても暑いです」
テレビをつけると壊れたみたいに「暑い」しか言わない。
だがそれくらいでちょうどいいのかもしれない。
体温調節がきかなくなった高齢の方は、恐ろしいことこに、室温30℃をこえたことにも気づかず
「冷えたらダメだから」
と何枚も重ね着しまくるものだから…。

さて、100才近い利用者Aさん。先日、かつて宝塚ファンだったことを思い出された(『呼び起こされ宝塚スターの記憶』)。いろいろ掘り下げて尋ねているうちに、さらに昔の記憶が蘇ってきた。
映画の記憶だ。

近所に映画館があったんだって。
「女学生のころ、学校がえりに、みにいった。カバンをこう、隠してな」
カバンを小脇にかかえる仕草をするAさん。
・・・お箸を持つのも一苦労なのに。

学校帰りに映画みてたら叱られるんですか?と尋ねると、
「そう、そう」
いたずらっぽくAさんは笑った。
「わあ不良だったんだー!」
私がからかうと、すごく嬉しそうだった。

入江たか子っていう女優さんが好きだったんだって。すごく綺麗な女優さん。

「ブロマイド、を、よう買った」
ブロマイド!
懐かしいですね!
私も宝塚のブロマイドたくさん部屋に飾ってましたよ。Aさんも?
「うん、そう、そう!」
Aさんはまた喜んでくれた。
Aさんがこんなにたくさん話してくださったのは初めてのことだった。

映画スターでも宝塚でもジャニーズでも。
ファンって、他人からはバカみたいに見えるかもしれない。「お金も時間もたくさん無駄にして」と、私もよく叱られたものだ。
「そのお金を貯めていればどんなに…」
と笑われたものだ。

でもAさんと話をしていてわかった。
無駄じゃない。
ぜったいに無駄じゃない。
80年も経ってから、こんなにも素敵な笑顔になれるんだから。
高齢や病気のために記憶は失われるかもしれないが、楽しいという感情、夢中になった思い出は、宝物のように大切に大切に残しておかれるものなのだろう。
何かを好きになること、夢中になることは、お金では買えない宝物を貯めておくことになるのだ。