祖父の隠し財産を発見したときの話

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10年ちょっと前、同居していた祖父が亡くなり、おびただしい本や古着が遺された。どれもこれもガラクタばかり。だが唯一、異彩を放っていたものがある。金庫だ。ダイヤル式の重たい金庫で、なかなか立派だから、大事なものが入っているに違いないと親戚一同ワクワクした。

開け方がわからないので鍵屋さんを呼んだ。金庫が開いたときはドキドキした。
中から出てきたものは…
「通帳だ!」
銀行の預金通帳だった。しかも何冊も!
一同、おおいに盛り上がった。
「遺産!?」
「おじいちゃんの隠し財産がでてきた!?」
叔母と、まだ元気だった母が手分けして通帳をパラパラとめくった。私も後ろからのぞきこむ。
気になる預金額は?
「・・・からっぽだ」
「こっちも」
「使用済みのハンコが押してある」
解約した銀行のものや、古くていらなくなった通帳ばかり。一円たりとも入っていなかった。
「なんでこんなモノを後生大事に金庫に入れてるのーーー!」
いかにもうちのお爺らしいと、みんなで大笑いした。

数年が経ち、私はその思い出深い金庫を処分した。母の在宅介護を始めるにあたり、すこしでも部屋を広く使いたかったから。独りで運ぶには重すぎるので、顔なじみの廃品回収業者にきてもらい、壊してから運んでもらうことになった。
「これ、中身ちゃんと見た?」
業者のおっちゃんはチラッと笑った。
・・・見ましたよ。ゴミしか入ってなかった。
するとおっちゃんは、驚くべきことを言ったのだ。
「これ二重底になってるよ。鍵の開け方わからんけど壊していいよね」
おっちゃんは器具をつかってベキベキと金庫の中身を剥がした。そしたら薄い抽斗みたいなのがあらわれた。朱塗りの抽斗。
「おおおお!」
おっちゃんと2人で盛り上がった。
今度こそ!
今度こそ、お爺の隠し財産か!?
「ななな何が入っとる?」
業者のおっちゃんも興味津々。めっちゃ覗いてきた。
隠された抽斗の中に入っていたのは・・・
「収入印紙」
私は指でつまんでおっちゃんに差し出した。
「たった200円やんけ!」
おっちゃんは爆笑した。
200円の収入印紙がパラパラと数枚。
それだけだった。
「なんでこんなもん隠しとるねん!」
私は天国に向かって吠えた。
お爺の考えることはほんまにワケわからん!

さらに5年の月日が流れ。
本日。
ついに。
お爺の最後の隠し財産・200円の収入印紙を、とうとう使い切りました!
パスポートの申請って収入印紙で払うんですよね。しかもかなり高額なのですよ。200円の証紙をペタペタと貼って足しにしましたよ。・・・助けてくれてありがとうね、お爺。
「どういたしましてでしゅ」
目を糸にして笑うお爺の顔が目に浮かんだ。