たった一晩で季節が進んだ。夜が明けると、空の色も風の音も空気の匂いも、すべてが深い秋のものになっていた。
こんな日に限って午後からの仕事がキャンセルになった。突然ヒマになったので本でも読もうと思ったけれど、窓から見える青空があんまり美しいので外に出た。
慣れない自転車をこいで、まずは川沿いの公園へ。
草の上に寝転がって空を見上げてみた。めちゃくちゃ気持ちがよかった。頭から背中からお尻までひっつき虫だらけになっちゃったけど。
そのあとまた自転車で、川に沿ってずーっと下ってみた。知らない道だ。初めての道だ。どこに出るのかよくわからないからドキドキした。ちょっとした冒険だ。
しばらく走ると見覚えのある道に出た。角を曲がって丘をのぼれば家に帰ることができる。
ただ…その道が…ものすごい上り坂。キツイ上りが300mくらい続いている。
これは無理だと思った。
「自転車を押してのぼるしかないな」
ところが、車道を挟んだ反対側に、一組の親子がいた。やはり自転車をこいで坂道をのぼっている。子供は小学校低学年くらいで、いっしょうけんめい頑張ってペダルを踏んでいる。
そんな姿を見て
「あんな小さい子でも頑張ってるんだ。私も負けないで頑張ろう」
私にしては珍しく殊勝なことを思ってしまった。そして足に力をこめて坂道をのぼっていった。
それでもやっぱりキツかった。すぐに息がきれて汗だくになる。道の向こう側では、自転車をおりてしまった子供を母親が励ましているのが見えた。母親はまだ余裕の表情でペダルをこいでいる。
「さすが、母は強しだな。この坂を平気で登るなんて」
そう思うと、よくわからない根性が出てきた。勝手に張り合いたくなった。あのお母さんに負けたくなくて、自転車を押したくなくて、必死になってペダルをこいだ。
かなりきつかった。足がだいぶ痛くなった。それでもなんとか丘の上まで登りきることができた。
「やったー、登頂!」
心の中で一人で喜んだ。道の向こう側でも母子が同時に坂をのぼりきったところだった。私は汗みどろなのに母親は涼しい顔だ。すごいと思った。
丘の上の横断歩道で、私と母子はすれ違った。疲れてぶうぶう文句をいっている小さな女の子はピンクの子供用自転車。そしてあの坂道をのぼりきっても汗ひとつかかない母親が乗っているのは…電動自転車だった。
そりゃ汗もかかないはずである。私は一体何と張り合っていたのだろう…。ああ、膝が痛い。
コメント
そのお母さん、何者なんだろう? 自転車競技の選手だった
のか?
?マークが点滅する頭で読みすすめて行ったら、あっはっは。
痛む膝に同情しながらも(ほんとですよ)、「電動自転車」に、
なかなか笑いが止まりません。
300mもの急な坂をヒーコラ登りきっただださんの、よくわからない
根性に、いえいえ、わかりますともその気っ風に、ホレました(笑)
まさ電動と張り合っていたとは思いませんでした。
電動アシスト自転車っていうんでしょうかね。
あれ欲しくなりましたよほんと。