ユース・オーケストラのコンサート、終わりましたー! 私と母も2人バイオリンでちゃんと(?)演奏してきました。興奮して記事が長くなりすぎたので、目次をつけておきますね。(2人バイオリンについての説明はこちら)
不安な朝
朝。なかなか目覚めない母に、今日は何の日か覚えてる? と尋ねたら
「コンサートの日!」
パチッと目をあけた。
「本番、頑張らなくっちゃね!」
母はやる気満々だ。だが私は不安でいっぱいだった。不安の原因は、母と妹とのラインのやりとりに如実にあらわれている。
『ガスト朝食後始末』って何だ?
『心に吹くあなたのお茶って』何だ!
妹は
「寝ぼけてるの?」
と返してきたが、寝ぼけているというよりも、ボケている。高次脳が炸裂しているのだ。今日はかなり調子が悪い。普段よりもっと記憶がむちゃくちゃで、作話がでて、空気が読めない。悪い予感につつまれながらリハーサルが終了した。
(舞台の位置決めをする母)
いざ、ステージへ!
午後2時。青空に蝉しぐれがふりそそぐ、夏らしい午後。小さな市民センターの駐車場は開演30分も前から満車になった。客席が足りなくなって椅子があわてて追加されたが、それでも立ち見が出ていた。大盛況だ。
私も母もみんなと同じ白ブラウスに黒ズボンという姿で舞台に出ていった。私たちはファーストバイオリン、舞台の下手側だ。ライトがまぶしい。
(他の曲の写真です。私達は写っていません)
指揮者が登場する。水を打ったような静けさにつつまれた。指揮者の腕が上がる一瞬、全員がいっせいに大きく息を吸った。胸が痛くなるほど大きく息を吸い込み・・・次の瞬間、タクトが振り下ろされる。
呼吸とともに音楽が走り出した。ヴィヴァルディが走り出した。
練習と違って、もう止められない。緩むことも戻ることもない。転がりだした音楽は、バイオリンもビオラもチェロもチェンバロも、みんな一つになって突き進んでいく。子供たちと若者たち、それを助ける大人たち。みんなの楽器からうまれる音楽は美しい和音となって天にのぼっていく。それは素晴らしい演奏だった。
素晴らしかったのに!
それなのに!
それなのに、それなのに!
母の高次脳機能障害も絶好調だった!
ちゃんと弾けたのは3曲目だけ。1曲目がうまくいかなかったのは前日にボーイングが変更になって混乱したせいだろう。2曲目はどこを弾いてるのか曖昧になってあやふやに誤魔化してた。しかし4曲目ときたらもう…!
1小節まるまるズレたのだ。
母は半側空間無視のせいで楽譜が見えにくい。そのせいで1小節すっとばしてしまい、そのまま弾き続けた。普段ならすぐに気がついてみんなに合わせるんだけど、今日は調子が悪すぎて自分が間違ってることに気付きもしない。
私は戦った。弓を弾くのは母だが、弦をおさえて音程を取るのは私だから、なんとかして変な音が出ないように、なんとかしてみんなのところへ戻っていくように、ずっと戦いつづけていた。必死すぎて手に変な汗をかいていた。母は姿勢もどんどん左に傾いてきており、体重が私に乗ってくるのですごく重かった。
後半は本当にボロボロだったが、最後の4小節でギリギリみんなに合流することができた。最後の最後の
「ジャーン!」
だけはちゃんと音が合ったのだ。終わったときはホッとして泣きそうだった。
幸せ!
退場して袖へ引っ込んだとき、隣で弾いていた人に、間違えてごめんなさい!と謝ったら
「ぜんぜん気づきませんでした…」
と返ってきた。みんな必死だったし、周りの音にかき消されてたからわりと大丈夫だったみたい。母は母で、自分が間違ったことに気づいてないから
「完璧に弾けた!」
とご満悦。うん、まあ、本人も周囲も気づいてないなら、そういうことにしておこう…。
さて今日の客席は、満員御礼! 完全なキャパオーバーだった。頑張って椅子を増やしてたみたいだけど、座れなかった方、ごめんなさいでした。客席には私の職場の先輩も、なんとブログのお客様までいらっしゃった! 今日きてくださった皆様、本当にありがとうございます!
ヴィヴァルディを弾き終えて客席へおりると、母はたくさんの人に取り囲まれた。友人や知人、音楽仲間、福祉関係の友人などなどが噂を聞きつけて聴きにきてくれたのだ。
たくさんの方々に
「久しぶり!」
「頑張ってたね!」
「すごいね!」
口々にほめてもらって、花束ももらって、母はもう天にも昇っちゃうくらい興奮していた。血圧が上がりすぎるんじゃないかと気になるくらいだった。
でもね、いいんだ。
頑張ったんだもんね。
とっても頑張ったんだもんね。
片腕が使えなくなったからといって、あきらめなかった。
昔みたいに弾けなくなったからといって、あきらめなかった。
ちょっと前までプロだった人が、小さな子供に混じって練習をしたんだ。
バイオリンが好きだから。
みんなと一緒に弾きたいから。
ただそれだけの理由だった。
小さな子どもたちや元生徒たち、そして大事な仲間である先生方と一緒に練習を重ねた時間は、母にとっては宝物だったはずだ…私にとっても。オケ仲間全員に感謝の気持ちでいっぱいだ。
母は言う。
脳出血をやっちゃっても。
要介護5でも。
片腕でも。
立てなくても。
高次脳機能障害でも。
楽譜があんまり読めなくても。
「それでもバイオリンが弾けるんだよ! 音楽を、人生を楽しめるんだよ!」
頂いた花束を、母は満面の笑顔で抱きしめる。
「楽しかった。本当に本当に楽しかった! なんて幸せなんだろうね!」
幸せだったね。
よかったね。
私も本当に本当に楽しかった。
難しくてすごく苦労はしたけれど、あの曲が弾けて幸せだった。
ありがとう。
そして、さよなら、ヴィヴァルディ。
コメント
だださん、お母様、本当にお疲れ様でした!
お仕事に家事に介護、そして練習…だださん、とってもとっても大変だったでしょうが、でも良かったです!!
はーい、大変でした(笑)
私の仕事の日は、介護タクシーでデイからレッスン場へ直行!とかだったので、母も大変だったと思います。
でもそれも楽しい思い出です。
感動…。
本番の演奏が聴こえてくるようでした。
ひたむきな情熱と努力はどこかで必ず誰かの心を動かす。
素晴らしい体験を読ませていただきありがとうございます( ; ; )
ありがとうございます。
成功の如何にかかわらず、一生懸命がんばるのって楽しいですね。
現実は小説のようにはうまくいきませんが、少しでも何かをお届けできたら嬉しいです。
長い記事を読んで頂いてありがとうございました。
だださん、こんちには。
少し前にゴキガードのコメントを残した者です。
臨場感あふれる日記にこちらまで元気が出るよう。
コンサート、本当にお疲れさまでした。
大好きなものがある、やりたいことがあるって、やはり生きる源になるんですね。
贈る方の気持ちまで伝わってくる花束の綺麗さ、抱えているお母さまの姿にじーんとしました。
私のお茶も心に吹きました!(←ごめんなさい、何かすごくツボにはまって・・・)
ありがとうございます。
あなたのお茶が心に吹いて嬉しいです(笑)
人生は楽しむためにあるのだというのが我が家の信条で、母は常に何かしら楽しむ方法を模索しつづけています。
しかし私自身がトシとったときに、そんなにやりたいことがあるのかなーとも考えてしまいます。
今のうちから楽しむ能力を鍛えておかねば!です。
そうそう、あれ以来、一度もゴキ出てません(笑)
お疲れ様でした
光景が浮かぶようです。
私ならネック握って音が出ないようにしちゃったかなぁーとか思いながら読みました。
次の目標を楽しみにしていますね
私も12月目指して候補曲がメールで送られてきましたが、難解曲ばかり、頑張りますね
ありがとうございます。疲れました(笑)
>私ならネック握って音が出ないようにしちゃったかなぁーとか思いながら読みました。
そうそう!そうなんですよー。
記事中に書いたら長くなるから止めたんですが、練習中はそうやってたんです。
あまりにも酷い時は音が出ないようにバイオリンを奪っちゃってました。
でも本番でそれはできませんでした。母が可哀想だから。
それに舞台上で親子喧嘩を勃発させるわけにはいきませんし(笑)
幸い、似たフレーズが繰り返す曲なので、私のほうでギリギリ合わせたりしてました。
じーじょさんの本番は12月なのですね!
頑張ってくださいね!