タイ・たった1日だけの旅

たった1日だけの旅(1)

今回のフライトはエア・アジア。
初めて乗るLCCだ。
深夜にもかかわらず、関西空港のカウンターには大蛇の行列ができていた。
びっくりするほど大勢の人・人・人!
以前ゴールドコーストの空港でチェックインに4時間かかったことを思い出した。
幸いそこまで酷いことにはならなかったけれど。
人酔いしながらチェックインを済ませたらもう搭乗開始時刻が迫っている。
大急ぎで出国だ。
手荷物検査のとき、後ろから話し声が聞こえてきた。
 「もしもし? えっ、今? 関空だけど。もうすぐ出国」
若い男の子がケータイで話している。
 「いや、だって見送りとか照れるやん。だから言えんくて・・・。
  帰国? いつになるかわからへん。金次第かなあ」
学生らしい自由きままな旅なのだろう。
 「たぶん3月半ばには帰るよ。それと・・・言い忘れてたけど、チョコむっちゃおいしかったで。ありがとう。あのきらきらしたやつとか、うまかった」
そうか。
相手は彼女か。
ホワイトデーまでに帰ってやれよ。
これを書いてる今もまだ、彼は旅をつづけているのだろう。
彼女は帰りを待っているだろう。
関空発クアラルンプール行きはぎっしり満席だった。
通路をはさんだ隣りの列にはマレーシア人の親子。
幼児2人、ずーっと泣いている。
前の席はおばあちゃんとおじさん。
声高な英語でずーっと喋っている。
深夜とは思えないほどにぎやかな機内だ。
私の隣席は若い女の子だった。
元気で明るいEちゃん。
マッサージを学ぶためチェンマイへ向かうというEちゃんは、とってもいい子だった。
私たちも他の人に負けじとよくしゃべった。
エア・アジアのスチュワーデスの顔が怖いとか、制服はいろっぽいとか。
となりの人がたべてる機内食はどうだとか。
南の海の話とか。
小笠原の海はすばらしいって、Eちゃんは教えてくれた。
私たちは2人とも、これから始まる旅が楽しみで、興奮のあまりほとんど眠れなかった。
ただ、楽しい会話のなかで唯一、私が
 「うちは家族が病気とか障害とかあるから、家でにくくって」
っていったときの、彼女の言葉が忘れられない。
 「そんなの気にすることないよ。
 親は親の人生があるし、子どもは子どもの人生がある。
 放っておいてもなんとかなるもんだよ」
 「そうだよね!」
と私は答えた。
笑って同意したのだ。
あのときの短いやりとりが、楔のように心に残っている。
・・・親も自分もまだ若くて元気だと、信じているから言える言葉だった。
楽しくおしゃべりをしていたら6時間かそこらのフライトなんてあっという間だ。
ほとんど眠る暇もなく飛行機はクアラルンプールに着陸した。
タラップを降りると霧雨がふりかかる。
空気がもわっと蒸し暑い。
熱帯の風が吹いている。
「東南アジアへようこそ」と、雨が歌っている。
でも、私はクアラルンプールに用はない。
乗継ぎのために降りただけ。
次のバンコク行きは2時間後だ。
が、Eちゃんの乗るチェンマイ行きはあと1時間で出発だった。
 「どこだろう、トランスファールームって」
Eちゃんは焦っている。
若い彼女は乗り継ぎをするのが初めてなのだ。
それで私は
 「1時間あればぜんぜん大丈夫だよ」
と言ってみた。
余裕をかましてみた。
旅慣れた様子を演出したかった。
なのに。
ゲートが見つからない。
私たちが探すのは、タイ行のゲート『Y2』だ。
だけどどこを見渡しても『T』ゲートしかない。
T1、T2,T3・・・。
Y2ゲートなんて無い!
そうこうしているうちに時間が迫る。
しかたがないから手当り次第に人をつかまえて
 「Y2ゲートってどこ!?」
尋ねまくった。
車イスを押して歩いてる係員、掃除のおばちゃん、ショップの店員さん。
みんな反応がイマイチだ。
ちょっと困って首をかしげ、それから、あらぬ方向を指さして
 「◎△※■☆××○!」
ぜんぜんわからない。
でも、なんとなく遠いような気がする。
どうしようこれ。
 「もう搭乗時刻だよ!」
Eちゃんは本気で焦っている。
そのとき、バリバリ仕事してますっていう感じのお姉さんが
 「T6!」
と一言、教えてくれた。
T6?
そのゲートならわかる!
私たちは走った。
T6にはベトナム行きのフライト案内がでていた。
係員に搭乗券を見せると
 「5分待ってなさい」
鼻であしらわれた感じだった。
忙しくてY2なんかに構ってる暇はない、みたいな。
ちょっと心配になったけど、付近には他にも日本人がいた。
行き先を聞いてみると
 「チェンマイです」
という。
彼らもEちゃんと同じ飛行機に乗るのだ。
ちょっと安心した。
そして5分後。
係り員はT6のドアを開け
 「そこからずーっと右に歩いたらY2だ」
と言った。
Eちゃんはチェンマイ行きの人たちとともにT6出口から出発し、私も1時間後には同じ道を歩いた。
果たしてY2は、T6ゲートから何百メートルも先の最果てみたいなところにあった。
そこに至るまで案内板らしきものは何ひとつない。
まったくワケがわからない。
・・・やるなあ、マレーシア。
 「乗継なんてへのかっぱ!」
って思ってたけど。
私なんてまだまだだと思った。
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