ボリビア

フラミンゴの朝

年末のあわただしさのなか
バタバタと日常を送っているときに
ふと、思い出した情景がある。
あれはボリビアの高地、アンデス山脈の湖だった。
赤い湖、ラグーナ・コロラダのほとりで一泊した。
空気が薄くて寝にくいといわれる場所ながら、ルームメイトたちはぐっすりと眠りこけ、私だけが早起きをした。
水道は屋外にしかないから顔を洗いに外にでた。
夜のあいだトタン屋根を打ちつづけた雨はあがっていた。
空は重たい雲におおわれている。
風もない。
ずっしりとした朝だ。
私は空をみあげ、夜が小さくなって山のむこうへとしりぞき、
朝がどこからともなくひろがってくるのをながめていた。
荒涼とした世界は無音のヴェールに覆われていた。
これからこの薄膜をやぶって一日が始まるんだ。
ラグーナ・コロラダ
湖は静かだった。
色あせた赤い水が、しん、と凪いでいる。
生まれる前みたいな世界のなかで、動くことができたのは、一群れのフラミンゴだけだった。
フラミンゴはくっきりと一列に連なり、しずしずと浅い湖面を歩いてくる。
なんと美しい一列縦隊だろう。
珊瑚のビーズに糸を通したようだ。
糸を動かすと、珊瑚色のビーズが前のものにくっついていくように
桃色の鳥たちはひとすじの乱れもなくすすんでいった。
やがて先頭のフラミンゴが岸にたどり着くと、びるるる、と鳴いた。
次のもその次のも、到着するとびるるる、びるるる、と鳴いた。
静かな静かな、風よりほかに音のない世界に
フラミンゴの声だけが空にむかって朝を告げていた。
フラミンンゴ2
(昼間はバラけているが夜は一列で寝るらしい。)
なんともいえない光景だった。
ものすごく静かだったことと、ものすごく寒かったことをよく覚えてる。
私がこうやって日々の暮らしを営み、
仕事をし、年末年始の雑事に追われているあいだにも
あの湖ではやっぱりフラミンゴたちがびるるびるると啼いているのだろうか。
そんなことをときどき考える。
日常がどんなに忙しくても、やりきれなくても、閉じ込められても、
私はこの地球上に別の世界があることを、覚えていられる。

フラミンゴの朝” に2件のコメントがあります

  1. SECRET: 0
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    とても共感。
    今この瞬間も、あの街はあの時みたいにざわめいていて、
    誰かが誰かをだましたりだまされたりしてて、
    地球がつくるすばらしい景色を見て感動している人がいるんだって、
    知ってることをうれしいって思います。

  2. SECRET: 0
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    >イクさん
    そう、あの遠い町では今も、誰かが誰かをだましたりだまされたり(笑)してるんですよね。
    現実感を伴なって知っている。
    旅をしているあいだけして一人じゃないことを知っていたように、日常に帰ってきてからは、けして世界がここだけじゃないことを知っていられるんですね。

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