「日本人はどうして国旗を身につけない?」
ときかれたことがある。
インドの旅行代理店の人だった。
「ぼくは世界中の国旗のコレクションをしている。
たいていの旅行者は、
バックパックに国旗を挿したりワッペンを貼ったりして、
自分の国籍か一目でわかるようにしているから、それをもらうんだ。
アメリカ、ドイツ、中国、韓国、オーストラリア・・・
でも日本の旗だけが無い。
日本人はぜったいに国旗を持ち歩かないからだ。
国旗は国の誇りだろう?
どうして日本人は自分の国の旗を誇らないんだ?」
それは複雑な歴史の象徴だからだ。
日の丸と君が代はいつでも論争の的だからだ。
私も国旗を持ち歩いたりしない。
日本で、日の丸を身につけて歩いたりなんかしたら、
ちょっと特殊な団体の人だと思われてしまうだろう。
だけど、一度だけ。
一度だけ日の丸を大きく振ったことがある。
ボリビアのウユニ塩湖でのことだ。
塩湖のホテル前には世界各国の旗が用意され
記念撮影ができるようになっている。
チリ人はチリの
ブラジル人はブラジルの
韓国人は韓国の旗を掲げ
誇らしげに写真を撮っていた。
「あなたは旗と写真を撮らないの?」
チリ人の友達に声をかけられ
・・・私も撮るか。
と腰をあげた。
だが実際に日の丸を前にすると大きなためらいがあった。
学生時代、先生から、日の丸は罪深いものであり
君が代が鳴っても立たなくてよろしい、歌わなくてよろしいと言われて育ったからだ。
それでもいつだって
オリンピックの表彰台に日の丸がのぼると感動した。
問題を抱えているとはいえ、
日の丸は世界が認めるこの国の旗であり
今のところ日本は他に旗をもっていない。
これが自分の国のマークだということは、
旅をしてみれば、みんな肌身で感じると思う。
友達から手渡された旗は
意外なくらいずっしりと重かった。
私は日本人であり
日の丸は
誇りも涙も、悲しく罪深い歴史の問題もすべてを抱きかかえた象徴だと思った。
それで私は日の丸を振った。
日本人であることから逃げてはいけない。
— ボリビア —
ウユニ塩湖で日の丸を振る
2011年12月30日