シリアの田舎に「土の城」とよばれる建物が並んでいた。
トゲトゲのついた三角形が可愛らしい。
「城」とは単なる呼び名で、昔ながらの土蔵である。



さて、この田舎家には小さな息子がいて
ニワトリを追い回していた。
２、３才だろうか。
タッタッタッと駆けて、転んだ。
　「うええええええん！」
大泣きした。
お母さんが笑いながら息子を抱きしめ
　「ハビービ、ハビービビ（可愛い子、いい子いい子）」
とあやしていた。
どこででも見られる世界共通の光景。
・・・では、ない。
子供が泣くの、久しぶりに見た。
そう言ったら同行のフランス人が
　「僕も久しぶりに見た！」
共感した。
彼もアフリカから北上してきたクチで
　「アフリカでは泣いてる子供を見なかった」
と言うのだ。
彼のいうとおり、たとえば長距離バスなんかで
どんなに満員でも赤ちゃんが泣いて母親を困らせたりすることはなかった。
アフリカの子供はむずからないものなんだろうか？
人種的なものなんだろうか？
そう話したら、フランス人は
　「厳しい環境に生きる子供は泣かないのかもしれないね。
　　ここの子はきっと豊かに、幸せに育てられているんだろう」
と言った。
泣いてる子供はいかにも可愛くて
あやしている母親はいかにも幸せそうだった。
人生には辛いことがいっぱいで
世界には悲しいことがいっぱいで
だから
転んだくらいで泣ける子供は幸せなのだ。

（買い物にきた母子/シリアの田舎町の市場にて）
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