とっても暑いこの季節。
怪談・・・というにはおこがましいけど
ちょっぴり涼しかった話をひとつ。

(宿ではないが、ナポリの建物)
イタリアのナポリでのことだ。
日本人の利用も多い宿に連泊していた。
良い部屋だった。
安宿のくせにトイレ・シャワー付きで窓も大きく開いている。
特徴的なのは、大きな鏡台。
姿見、と呼ぶべきか。
全身のうつる細長い鏡だ。
それが部屋のまんなかの壁にドン！と置かれている。
ベッドを除いて唯一の家具だったから
やたらと存在感があった。
この鏡が問題だったのだが
最初の日は疲れていたのですぐに寝た。
２日目も何も起こらなかった。
３日目も。
気に入ったからもう少し泊まってもいいか？と尋ねると、
オーナーは喜んで
　「それはよかった！
　　ノープロブレム、ノープロブレムだ」
と言っていた。
４日目の夜。
寝ようとして灯りを消したのに、部屋が妙に明るいままだ。
ベッドの正面にある鏡、
あの細長い姿見が白く光っている。
カーテンがうまく閉まらないから、
窓からヘッドライトが差し込んで反射しているのだろうと思った。
めんどくさいのでそのまま寝た。
５日目の夜。
この宿で過ごす最後の夜だった。
寝ようとするとまた明るい。
また鏡が反射している。
起き上がってカーテンを洗濯ばさみできっちり閉めた。
部屋は暗くなった。
で・・・。
ベッドに戻る途中、通りすがりに鏡を見た。
何気なく。
鏡をみたら。
何かがよぎった。
私じゃないものが鏡の中を横切った。
何か白い。
何かまぶしい。
何か光ってるもの。
何かはわからないし、わからないほうがいい感じがする。
考えてみれば
ここは車の入れない中庭に面した２階で
ヘッドライトなんか反射するはずがないのだった。
この鏡は、きっと夜は見ないほうがいい鏡なんだろう。
バスタオルを２枚かさねて姿見にかけた。
何かは知らんが、もうこれで映らないはずだ。
・・・たぶん。
私は霊感はほぼ無いに等しい。
鏡の中を光がうろうろしているのを見ただけで
金縛りにあったり寒気を覚えたりはしなかった。
ただ、母が言ってたことを思い出した。
　「ああいうのは気が弱いからね。
　　ビシッと言ってやると逃げちゃうのよ」
・・・ビシッと言ってみるか。
（でも怖いから）ベッドに入ったまま
鏡にむかって叫んでみた。
　「あんた、まぶしいねん！
　　出てこんといてや、ボケ！」
最後の「ボケ」は要らなかったかもしれないが
私の口癖みたいなもので
日本語の通じない相手に怒りを伝える用の言葉なのだ。
そんでそのまま寝た。
朝まで普通に寝た。
バスタオル２枚のおかげか「ボケ」が通じたのか
鏡はもうまぶしくなかった。
翌日のフライトをおさえていなかったら
宿を替えていただろうと思う。
チェックアウトのとき、オーナーに鏡のことを訊いてやろうと思ったけど
英語力がないのでうまく通じなかった。
とぼけられただけかもしれないけど。
ヨーロッパは古い建物だらけなので
こんな話はどこにでもあると思う。
皆さんも少々のことなら、・・・強気で「ボケ！」って言ってみてください。
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