「白砂漠」。
砂の海に白い岩がにょきにょきと林立する、ふしぎな景色が広がっている。
私たちはそこで一夜を過ごした。
テントは、無し。
薄っぺらいマットレスとぼろぼろの寝袋、各自1枚の毛布が与えられた。
ほとんど砂のうえにじかに寝ているようなものだ。
むちゃくちゃ寒いと聞いていたのでありったけの防寒対策をした。
Tシャツの上にパーカー2枚、ウィンドブレーカー、夜明けの頃はダウンジャケットも必要になった。
それほど寒かった。
だけどその夜ほとんど眠れなかったのは
寒さのせいでも寝袋の息苦しさのせいでもない。
綺麗だったからだ。
夜の砂漠があまりにも綺麗だったから。
遮るものが何もないから、月の光がびっくりするほど明るい。
わずかに緑がかった青い光が砂漠を照らす。
白い不思議な岩が林立する光景は
まるでスター・ウォーズの一場面だ。
宇宙のしらない星にいるみたいだ。
月が沈むと星がいっきに明るくなった。
無数の星がまたたいて、いくつも流れて消えていった。
ようやくうとうとしかけたとき
生き物の気配で目が覚めた。
キツネの顔がすぐそばにあった。
両脇に垂れた大きな耳。
とんがった鼻をつきだして、犬のようにくんくん私の臭いをかいでいる。
大きな目は好奇心でいっぱいだ。
日本のキツネより小さくて可愛いのだけれど
あんまり近かったのでびっくりして
「わっ!」
声をあげるとぴょんと飛んで逃げた。
隣の人が起きてしまってどうしたのと聞いてきた。
キツネはそのあと何度も来た。
私のことを食べ物だと思ったのか、それとも
「一緒に遊ぼう」
と誘っていたのかはわからない。
あんまりうるさいので頭から毛布をかぶり
枕元にはリュックを置いて近づけないようにし
それでようやく眠ることができた。
夜明けの頃、またキツネのほえる声で目が覚めた。
「朝だよ、人間たち!」
と起こしてくれたのか、はたまた
「さようなら!」
挨拶をしていたのか。
それきりキツネは見なかった。
私の枕元から1メートルのところに足跡がいっぱいついていた。
ほ乳類なんてほとんど棲んでそうにないこの砂漠で
キツネは寂しくないのかな、と思った。
— エジプト —
砂漠の夜
2010年3月25日
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野生のフェネックに起こされるなんて夢のようです。
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>T美さん
そうか、フェネックっていうんだあの狐!
夢のようにラブリーでございました。