うまくいかなかった

私と母の2人バイオリンは現在、バッハの『2つのバイオリンのための協奏曲(通称ドッペル)』を練習中。G線がうまく弾けなくて手こずったが、近頃ではかなり上達し、一通りちゃんと弾けるところまできた!よし!

そんなとき遊びにきてくださったのが、Kさん。母の高校時代からのバイオリン友達だ。このあいだから
「ドッペルをやりましょう」
と言ってくださって、何度か挑戦している。
最初のときは全然、話にならなかった。
2回目は、4分の1くらい弾けた、という程度。
でも今回は違う。今日こそは最初から最後までちゃんと弾くのだ。弾けるようになったのだから。かなり練習をしたのだから!

『2つのバイオリンのための協奏曲』は2台のバイオリンが追いかけあい、絡み合い、代わり番こに前になったり後ろになったりして編み上げる曲だ。まずは私と母の2人バイオリンの音から始まる。少し遅れてKさんが追いかけてくる。出だしは順調だった。かっこいいドッペルが始まった、と思った。

ところが3分の1も弾かないうちにつまずいた。私の指と母の弓が合わなくなった。とんでもない音が出て私はバイオリンをおろした。…おかーさん、どこ弾いてるの?
「今ここだよ」
母が指したのは、私が弾いているのより2小節も先だった。障害のせいで楽譜の左のほうがよく見えず、すっ飛ばしてしまったのだ。

「もういっぺん最初からやりましょう」
Kさんが明るく言ってくださって、頭から弾きなおす。
でも、ダメだった。
何回やってもダメだった。
何回やっても母は楽譜を読み飛ばした。

私はだんだんイライラしてきた。左手と右手が別々の音を出そうとするもんだから、それはそれは気持ちの悪い音が出る。うまくいかないことが重なって、あんなに頑張って練習したG線も今日はぜんぜん弾けなかった。

高次脳ってそうなんだ。普通の人みたいに「頑張ればできる」ってものじゃない。「練習は裏切らない」が通じない。日によって波がある。天気が不安定なせいかもしれない。朝、眠りすぎたせいかもしれない。今日はダメな日なんだ。

「そんな日もあるよね」
とKさんは優しく励ましてくださったけど、私は悔しかった。母はもっと悔しかったと思う。だって、このあいだはあんなに上手に弾けたのに。よし、これなら! と思ったのに。

認めたくはないけど、やっぱりちょっと、思うのだ。
前から思ってたことなんだけど。
・・・2人バイオリンって、合奏には向かない。

2人バイオリンは、私と母、左手と右手の呼吸を合わせるだけで一苦労な演奏方法だ。そこに他のバイオリンが加わると、あっちにもこっちにも合わせなくちゃいけなくて、空気を読むことが難しい障害をもつ母の脳みそはついていけなくなるのだと思う。ユース・オーケストラに参加したときも周りに合わせられなくて苦労したのだった。

あと2週間で梅ちゃんが遊びに来る。「おばあちゃんと一緒にドッペルが弾きたい」と言った小学生の孫娘。大人のKさんとでさえ弾けないのに、子供の梅ちゃんと合わせられるわけがない。そう思って悲しくなった。母も悲しい顔をしていた。

優しいKさんは、そんな私たちに気長につきあってくださった。
「じゃあ、同じパートを弾いてみましょうよ。それならややこしくならないでしょ?」
コーラスに例えれば、ソプラノ・アルトに分かれた合唱ではなく、ソプラノのみで一緒に歌う。そうすれば釣られないだろうと。それでも母は何度も間違えたのだが、間違えるたびにKさんが引っ張ってくださって、軌道修正しながら、なんとかかんとか最後までたどり着いた。
「弾けたね、最後まで弾けたね!」
Kさんは喜んでくださった。

それを何度か練習するうちに、母はちょっとずつ、弾けるようになってきた。楽譜を読み飛ばす回数が減ってきた。1時間経つ頃にはパートに別れてもちょっとは弾けるようになっていた。慣れてきたのかなあ。
「絶対、次はもっと弾けるよ!」
Kさんが励ましてくれた。

変な音出しすぎてくたびれたので、バイオリンは止めにして、3人で菓子パンを食べて紅茶をのんだ。
「この子ずっと聞いてたねえ」
とKさんが笑った。
母のベッドではシシィがずーっと寝ていたのだ。猫はバイオリンがキライなんだけど、我慢してたのかなあ。

毛布ふみふみ

母は誰かと合奏をする方が好きなんだけど、私はソロのレパートリーもあったほうが良いと思うので、近頃は弾きやすくて楽しい曲も練習しています。いつか皆さんにも聞いていただけたらいいなあ…。

コメント

  1. 聴きたいです
    昨日ですが、初の試みでドッグカフェで二胡のソロコンサートをしました。ワンちゃん同席OKのコンサート、吠える子なんていませんでした。
    3線されたり、胡弓や琴を弾ける方もいらして下さって弾いてる私も楽しかったです。
    二胡でバッハ弾いてみようー音域が違うし弦が二本しか無いし弦が浮いて指板が無いのですけど
    お母様に負けないように弾いてみたいと思います。どうなるかな?(笑)

    • わあ、ドッグカフェのコンサートですか。すてきですね!
      犬さんって楽器と一緒に吠える、というか歌う子がいると聞いたのですが、みんなよく躾けられてるんですねえ。
      二胡でバッハ!
      どんな感じになるのでしょう。
      音楽は国境を越えるといいますが、大バッハもびっくりの音楽になるのでしょうね。
      楽しみですね。

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