母の頼みを断れない理由

母はミステリ好きだ。高次脳が回復した今では、推理小説を毎日読んでいるし、2時間サスペンスもちゃんと理解できるようになったし、『相棒』だってだいたいわかるようになった。

だからテレビで『名探偵・明智小五郎』をやると聞いて、母はとても楽しみにしていた。デイサービスでもミステリ好きの仲間と
「今夜ですね!」
と話していたらしい。
母たちがイメージしていた『名探偵・明智小五郎』

レトロで少し不気味でお耽美な、オーソドックスな江戸川乱歩の世界。怪人二十面相がでてきて明智小五郎&少年探偵団と戦う話。

だが放送されたドラマは母の知っている『明智小五郎』とはぜんぜん違うものだった。名前だけ残した別物だったのだ。サイバー犯罪と戦う軽いノリの現代ものだ。それでも西島秀俊さんはカッコいいし、私は楽しめたのだけど・・・母はポカーンとしていた。

「何がなんだか、ぜんぜんわかんない」
そりゃあ、そうだよね。サイバー犯罪だもん。ノリも若くて遊びの台詞が多く、高齢者には何を言っているのかさえ理解できないだろう。チャンネル換えようか?
「いい!見る。だって悔しいもん」
母はそのまま最後まで見ていた。ぜんぜんわからないまま。

私は録画したものを今日になって見た。
「あんたと一緒にもう一回見る」
と母は言う。

仕方がない。
母のために私はいちいち解説した。

「これが明智小五郎。こっちが小林君。この人が・・・」
「怪人二十面相?」
「いや浪越警部」
「じゃあこの人が警察なのね」
「いやそっちは明智さん」
「少年探偵団はどこにいったの」

犯罪の経緯、人間関係、行動理由や目的。「今のはこういう意味で」「どうしてこうなったか」「何の話しているのか」なども細かく解説する。

正直かなり面倒くさい。
だが『面倒だから』と断ってはいけないのだ。
母は一生懸命、楽しもうとしているのだから。

毛布モミモミを楽しむシシィさん

同じようなことをもう一つ。
今日、母は「掃除機をかけたい」と言いだした。

車椅子にのって片手だけで掃除機(コードのあるタイプ)をかけるのは不可能に近い。自分ひとりでは移動すらできないのに。
「無理だよ」
と断るのは簡単だ。
ほんというと母のお願いは断る時も多い。
「また今度ね」「ごめん忙しいから」
でも母には抗う術がない。
私が断ったら、それで終わりだ。
母の楽しむこと、できることが、一つ、減ってしまう。
そう思うとなかなか断りづらいのだ。

そんなわけで私が車椅子を押しつつ、掃除機のコードをさばきつつ、母が掃除機をかけました。

母はいつでもこんな調子。
「こんなもの、つまらない。やーめた」
ではなく
「おもしろさを見つけよう。理解しよう」
と努力をする。
「どうせできないから、やらない」
ではなく
「できないかもしれないけど、やってみよう」
と挑戦する。

挑戦する努力。
人生を楽しむ努力
それは母の最大の長所だ。
・・・付き合うほうはわりと大変なんだけどね?

これを書いている現在、母は『名探偵・明智小五郎』の後編をひとりで見ています。また明日、私がぜんぶ解説することになるんだろうなー。

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コメント

  1. お疲れ様です。
    お付き合いする係は大変ですよね。
    で、「そのくらいやってあげればいいのに」なんて軽く責められ、ピキッとなったりします。
    「そのくらい」が三つ四つであとは自立で出来るならともかく、介護って「そのくらい」のオンパレードなので、更に何か希望されたり依頼されると「仕事が増える」「休みが削られる」ことになります。
    しかも、一度やって本人が挫折して投げ出したのに、しばらくすると記憶はリセットされて「死ぬまでに一度でいいからやってみたい」と繰り返し懇願される、あるある。
    うちでも、プランター菜園やりたいだの、押し花したいだの、裁縫したいと言われ、
    結局、プランターと土買って種まきして(このタネを貰ってきたのが運の尽き 笑)水やりしたのはワタシですし、押し花を押したのは婆さまですが、花を採取してくるのはワタシ(葉っぱも欲しいとかもっと形のいい花弁が欲しいとか注文うるさい 笑)、裁縫については針の紛失が怖いので、リビングでなら良いけれど、居室の介護ベッドでの裁縫は絶対ダメですと言ったら渋々諦めた。
    江戸川乱歩ものはワタシも大好きですが、昭和の時代設定や美輪さまの舞台くらいの非日常じゃないともう無理ですよね。
    現代アレンジと聞いてどうかなと思いましたが、開始10分でやめました。
    申し訳ないけど、怪しく薄昏い、電燈の明かりも充分に届かない夜闇どころか、ピッカピカのLED照明とPCモニターに埋め尽くされた世界はRANPOであって乱歩じゃない。

    • POTEさん、こんにちは。毎日お疲れ様です。
      >「そのくらいやってあげればいいのに」なんて軽く責められ、ピキッとなったりします。
      周囲にはわかってもらいづらいことですよね。
      些細なことでも毎日の積み重ねで大変なことになるということが想像つかないのでしょうね。

      >一度やって本人が挫折して投げ出したのに、しばらくすると記憶はリセットされて「死ぬまでに一度でいいからやってみたい」と繰り返し懇願される、あるある。
      せつない…でもたしかによくあります(笑)
      「頑張って望みを叶えても、すぐ忘れるなら意味がないのでは?」
      と思ってしまう。
      得られるのは一瞬の満足感だけ。
      介護って儚いですね。

      このあいだのドラマは乱歩だと思わなければそれなりに楽しめましたよ(笑)
      お茶の名前が黒蜥蜴でした。

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