病室のチャイコフスキー

仕事のあと入院中の母を見舞う。最初の頃は妄想ばかり見て心配したが昨日あたりから大人しくなった。

病状はよくなったので、あとは退院後のためにできるだけリハビリをしなくちゃいけない。ストレッチ、筋トレ、マッサージ、端座位、寝たまま足の曲げ伸ばし100回、そして、
・・・そして。
2人バイオリン。

といっても大部屋にバイオリンなんて持ち込めないから、エアー・バイオリンだ。用意するのはスマートフォンとイヤホン、楽譜。イヤホンを片方ずつ耳につけ、音楽を再生する。曲はもちろん、チャイコフスキーの『弦楽セレナーデ』だ。

ドラマチックな幕開き。どきどきするようなクレッシェンド。母は右手をなめらかに動かして空中の弓を弾く。私は見えない指板に指を滑らせる。顔を寄せ合い、楽譜を読みながら、ベッドの上でチャイコフスキーを弾く。母の動きに合わせて点滴のチューブが揺れる。看護師さんの声が聞こえる。どこか遠くで甲高いブザーが鳴っている。夕方の病院はけっこうにぎやかだ。それでも、そんなものおかまいなしで、私たちの世界にはチャイコフスキーが流れている。

「ここから難しいところだよ」
「がんばるよ!」
「ちょっとでも音程はずしたら聞けないから」
「・・・がんばるから!」

ほほ笑みながらエアー・バイオリンを弾きつづけていると、
「どうですか?」
チャイコフスキーと仕切りのカーテンを押し開き、担当の先生が顔をだした。私たちは慌ててイヤホンをはずし、現実の世界に戻ってくる。先生は
「検査の結果も問題なし。もうちょっとご飯を食べられるようになったら帰れるから、頑張って」
と言ってくれた。ご飯をたくさん食べることは家でも難しいのだけど。

明日と明後日は来れない、というと母は「エーン」と泣き真似をした。代わりにオヤジや妹が来てくれるから寂しいはずはないんだけど。
「なんで来れないの?」
・・・ディズニーランドに行くから。

号泣する龍ちゃんを心配そうに見つめるサンジ。

姪っ子の椿と、ずっと前から約束してた。七夕の短冊に
「東京ディズニーランドに行けますように」
と書いたと聞いて、連れて行ってあげると約束したのだ。椿はむちゃくちゃ楽しみにして、ガイドブックを買い、ノートを作ってTDLの研究をしている。やめようなんて言えない。
母は
「それじゃあ、しょうがいないね、気をつけて、お土産にクッキー買ってきて」
と言った。

実をいうと母のことよりも、仕事をひとつ休まなくちゃいけないのが、申し訳なくて申し訳なくてしようがない。母の入院と先月のオヤジの病気でけっこう休んじゃったから。すみません。来年はサボらず働きます!

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猫とビターチョコレート

コメント

  1. 落ち着きを取り戻して、一山越えた感じですね。
    良かったです。
    皆さんが楽しみにしていたディズニーランド行きも無事成立出来そうで何よりです。
    実は我が家は電車で30分くらいの距離なので、20:30からの花火の「音」は毎晩よく聞こえます。
    2階建てなのでマンションに阻まれて花火は見えないんですけどね。
    近所の高層マンションからは綺麗に見えるらしいです。
    花火の音聞きながら、だださん達もこの花火を楽しんでいるんだろうなあって思ってますね。
    楽しい夜をお過ごしください。

    • おお、そんなに近いんですか!
      夢の世界を身近に感じ毎日花火を…いいなあ。
      私も花火を見ながらPOTEさんに思いを馳せたいところでしたが!
      残念ながら昨夜の花火は中止でございました。
      音が聞こえなかったでしょう?
      またの機会ですねー。

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