島田荘司 :写楽 閉じた国の幻

息子を亡くしてどん底まで落ちた主人公が、写楽の正体を解き明かそうとする。

まずは素直に、おもしろかった。
一人息子が事故で死んで絶望のどん底に落とされる前半、写楽は誰かを延々と考えたり調べたり討論したりを繰り返す後半、そしてたまに挿入される「江戸編」。写楽についての講義が長くてちょっと眠くなったりもしたけれど、難しくはないのでほぼノンストップで読むことができた。へえーすごいなー、おもしろいなーって感心して読んだ。

ただ、主人公がとにかくダメダメだ。奥さんばっかり悪者にしてんじゃねーよ! なんでもかんでも運が悪いとか人のせいにするな!と読みながらイライラしてしまった。子供が本当に可哀想。

それに伏線がほったらかしのまま終了しているのにもちょっと笑えた。「写楽の正体は突き止めたんだから、まあいっか」って感じなのだ。読んでる私も「そうだね、まあいっか」と丸め込まれてしまった。たぶん、長くて読み疲れたのだと思う。


<ネタバレ>
主人公は浮世絵が専門の学者崩れ。幼い息子と2人で出かけたとき、ちょっと目を離したすきに息子が回転扉に挟まれて事故死してしまう。もともと妻とはうまくいっていなかったので家庭は破綻、息子の事故の件は裁判になり、その煽りをくらって自身の研究もピンチに陥る。

人生に絶望し自棄になった主人公は、美貌の東大教授に命を救われる。そして彼女の助けを借り、浮世絵最大の謎、写楽に迫っていく。

写楽の謎は主に3つ。
・写楽とは誰なのか、蔦屋を始めどうして誰も写楽の正体を口にしないのか?
・なぜ10カ月間しか活動しなかったのか?
・無名の新人なのに、とんでもなく豪華なデビューを果たしたのはなぜか?

主人公が研究を始めるきっかけは一枚の肉筆画だった。いかにも写楽っぽい、ミステリアスな絵に、オランダ語で『福は内鬼は外』のサイン入り。これを書いたのは誰か? 「福内鬼外」のペンネームをもつ平賀源内か? だが源内は写楽が活躍するより前に死んでいる。

写楽は誰かという謎にはたくさんの説がある。斎藤十郎兵衛説、歌舞妓堂艶鏡説、北斎説。歌麿、司馬江漢、円山応挙説…。作品中ではその解説と、可能性をひとつひとつ潰していくことにページを多く割いている。

従来の説はすべて無理があるとし、主人公は、写楽の絵は「日本人のものではない」と推測する。なぜなら、写楽の作品は誰の絵とも似ていないからだ。あまりにも違いすぎるからだ。まるで歌舞伎を初めて見たようなみずみずしい驚きと、からかうようなユーモアに満ち溢れている。これは当時の日本人にはありえない感覚だ。が、もしも写楽が初めて歌舞伎を見るようなズブの素人なら、蔦屋がこんなにもお金をかけて華々しくデビューさせたはずがない。

主人公たちが目をつけたのは出島のオランダ人商館だった。調べていくうちに、オランダ人の江戸参府の時期と、写楽の活動時期が重なることが判明する。

オランダ人の一人が江戸参府の折りに抜け出して歌舞伎を見たに違いない。そしてそのスケッチを手に入れた蔦屋が、歌麿にその絵を「敷き写し」させ、『東洲斎写楽(東の島で写し楽しむ)』の名で大々的に世に送り出した。だがそれは歌麿の美学に反することだったので、その後歌麿は蔦屋と袂を分かった。

主人公の説によれば、オランダ人が描いたのは一期の大首絵のみで、あとは別人ということになる。また、オランダ人が抜けだして歌舞伎を見たなどとお上にバレたら死刑ものだから、関係者すべてが固く口をつぐんだのだと。写楽の正体が解明され、「やったぜ!」という所で物語は終わる。

だけどさあ、最初に出ていた肉筆画は誰が描いたか判明してないよ?オランダ語の「鬼は外」の書き込みの意味は?美貌の東大教授がものすごく意味ありげな言葉を吐いてるんだけどその意味は?息子の裁判は?
・・・ ま、いっか!

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