帽子のかぶり方

訪問介護中のこと。
仕事が終わった頃に息子さんがやってきて
「さあ出かけるよ」
と、利用者さんに声をかけた。
「病院へ行くよ」
だが利用者さんは理解できない様子で
「わからんな、どこへ行くんやったかいな、わからんな、わからん」
と不穏になった。
「薬がなくなったから病院へ行くんだよ」
と百回くらい説明したが落ち着かない。
出かけたくないのかもしれなかった。

ところが
「はいはい、もういいから用意しよ」
息子さんは母親の頭に帽子をぐいっとかぶせた。
すると、うろうろしていた利用者さんの動きがピタッと止まったのだ。

それは顎にゴム紐がついている帽子だった。
利用者さんは帽子の形を確かめるように頭をなで、花模様をつまみ、それからアゴ紐をつかんだ。
・・・あっ。
と思ったときには、勢いよく帽子がはぎとられていた。

帽子、ぬいじゃった。
やっぱり出かけたくないのかな?
そう思ったのだけど、違った。

利用者さんは、ゴム紐を帽子の中にしまいこみ、再びかぶった。
浅くちょっと斜にして。
「おしゃれ!」
思わず拍手をした。
さっきまでは幼稚園の子がかぶるような帽子だったのに、少し向きを変えただけで、ぐっと大人の雰囲気が漂ったのだ。

「おっ、さすがやな!」
「芦屋マダムになりましたね! サンダルとよくお似合いですよ!」
私と息子さんがほめそやすと利用者さんはニコニコ笑って喜んだ。
そのあとは多分、落ち着いて出かけたと思う。

利用者さんが不穏になったのは、行きたくないからでも、行き先がわからないからでもなく、
「出かけるのなら支度をしなくちゃ、お洒落をしなくちゃ!」
と慌てていたのかもしれない。
「うちの息子ったら、ろくな服を用意してくれないんだからまったく…なによこのゴム紐、だっさ!」
とか思ってたのかもしれない。
お洒落な女性はいくつになってもお洒落なのだ。

本日の猫写真。
私の目を見て話すサンジ君。
・・・猫ってだいたい目を見て話すよね。

私  「そこ、どいて?」
サンジ「いやや」
私  「どいて?」
サンジ「いやや!」
私  「あんた、めちゃくちゃ邪魔なんやけど」
サンジ「知ってる」

こんな会話を毎日繰り返しております。